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部活動見学

周さんに連絡を入れても返事はない。今までの経験から、周さんはこういった事にマメじゃないのはわかっていたから僕は然程気にも止めていなかった。僕自身家族以外でこうやって連絡を取り合おうとすることもなかったし、携帯の存在すら忘れていることもある。だからどのくらいの頻度で連絡をしていいのか……用事もないのに連絡を取りたいと思ってしまうのはどうしたらいいのか……とか正直わからないところも沢山あった。携帯に入っている連絡先は家族と康介、陽介さんくらいだったのが、最近になって周さんや修斗さん、圭さんと靖史さんの名前が加わった。友達が増えてきてちょっと嬉しい。 僕は一人部室に向かっていた。康介は夏休みで体が鈍ったからと言って今日はサッカー部に顔を出すらしい。廊下を歩きながら、グランドの方へ目を向ける。すると誰かに肩を叩かれた。 「え……と、何?」 振り返ると笑顔の志音。改めて見ると、康介の言っていた通り凄く背が高くて僕なんか凄く見下ろされている感じ。モデルというだけあって足も長くてスタイルがいい。まるで違う生き物を見ているようで落ち着かなかった。 「ねぇ、竜太君てさ……俺の名前ちゃんとわかってる?」 「……わかってるよ。志音君でしょ?」 「ふふ、そう正解!俺の名前は結城志音ね!覚えてね。志音って呼び捨てでいいからさ」 じゃあまた……と歩き始めたら、慌てた様子の志音に腕を掴まれてしまった。 「え? 待ってよ。竜太君どこ行くの?」 「どこって部活だけど……」 志音は口を尖らせ、とても不愉快そうに何部だ? と聞いて来るので、美術部だと答えた。 「俺、今から美術部に見学行く!」 ……え? なんで急に? 面倒臭い。そのまま志音は僕について来てしまい、部室に到着するなり自分から自己紹介を始めてしまった。この何にでも動じない感じはさすがモデルってことなのだろうか。志音の社交性とユーモア混じりの自己紹介に僕はただただ圧倒されるばかりだった。 丁度部長もいたので僕から改めて紹介すると、志音は自分で見学したい旨を熱心に伝え、ちゃっかりと僕の横に座った。 真横でジッと見てられると落ち着かない。 「ねえねえ、なに描いてるの?」 椅子の上でゆらゆらと体を揺らしながら僕に聞いてくる。何って実際まだはっきりと決まっていない。ただ何かイメージが湧くかな……と筆を走らせていただけだった。 聞こえてないふりをして無視して僕は作業を続ける。それでもめげずに志音は僕のことをじっと見ていた。 気が散るから……と伝えようと顔を向けたタイミングで、先輩達が志音に声をかけ始める。見学なんて珍しいし、この志音のルックスだ。どうしたって注目してしまうし興味も湧くのだろう。先輩たちはみんなで志音を囲むようにして話し始めた。 「ねぇ、君一年生なの? カッコいいね。アートモデルやらない? 何日か付き合ってよ。僕達君を描いてみたいんだ。勿論ヌードなんかじゃないからね、そこは安心してよ」 先輩たちも何言っちゃってるんだろう。突然そんなこと言って失礼じゃないかな。僕はちょっと心配になってしまった。 志音はというと、少し困ったような表情を見せ、頭をぽりぽり掻いている。そして「ごめんなさい」と謝った。 「俺、先輩たちのお手伝いをしたいのは山々なんですけど、実際仕事でモデルやってるんで、難しいです。放課後とかあまり時間ないし」 笑顔で断ってるけどさ、そもそも忙しいなら何で美術部に見学しに来たんだろう。実際部活動なんかできないじゃん……何しに来たの?ひやかし? 僕が不思議に思ってると、「また明日ね」と言って志音は帰って行った。 わけわかんないや…… 僕も部活を終えて帰る支度をする。丁度その時、携帯にメッセージが入ったことを知らせる着信音が鞄の中で鳴った。僕はそれが周さんかと思い慌てて携帯を取り出し内容を確認する。 『ごめんなちょっと忙しい』 たった一言、それだけだった。期待した分ちょっとがっかり。でもちゃんと要件は伝わった。そうか、周さんは忙しいのか……アルバイトかな? でも学校は来なきゃ、だよね。 明日は学校で会えるといいな。

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