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志音の目論見

「先生、おはよう 」 俺の最近のお気に入り。仕事の関係で遅刻や早退が多い俺にとって、保健室は便利な場所だった。 「おはようって時間でもないよな? 下校時間だろ? こんな所で遊んでないでさっさと帰れよ、志音くん」 ここの学校の保健医は、意外に若くてかっこいい先生だった。俺が知っている今までの保健医は爺さんかおばさんだったから、こういう先生はちょっと新鮮。おまけに気さくで話しやすい。毎日のようにここに来るけど、体調の悪い生徒は勿論、先生に悩みを相談したり、ただお喋りに来たり、はたまた合コンのお誘いをしに来たり……と、様々な生徒が訪れていた。先生は先生で、いつもゆったりとコーヒーを飲んでいて、ヘラヘラっとしている食えないイメージ。よそ行きの顔が上手だな、と初めて見た時そう思った。 「お前、最近よく来るなあ。今日は仕事はないの?」 「うん、俺そんな忙しくないの。だからちょっとだけ休ませて」 「ちょっとしたらすぐに帰れよ」と先生が言うのをハイハイと受け流し、俺はベッドにごろんと横になった。 俺、この先生結構好き……かっこいいし、何より色気もある。この人絶対モテるだろうな。白衣姿もなかなかのもの。話も上手で相手を気持ちよくさせる術をちゃんとわかって会話をしている。こういうセンスのある大人は悔しいけど憧れる。 「忙しくないなら休む必要ないだろ? 今日はどうした? 志音くん、何か機嫌いいな。いいことでもあった?」 「……うん。こないだ話した気になる人ね……やっと、少しだけど俺のこと見てくれたんだ」 高坂先生は、俺の言ったことに不思議そうに首を傾げた。 「少しだけど見てくれたって……お前が? お前なら何にもしなくても注目の的なんじゃないの?」 「そうなんだよ!俺もちょっとびっくりなんだよな。……初めてなの。俺に全然興味持たなかった奴。俺は凄え好きなのにさ、おかしいよね?」 あれ? ちょっと先生真顔になった。気に触ること言っちゃったかな? 「志音……それってさあ、自分に振り向かないから意地になってるだけじゃないのか?」 「違うよ。本当に衝撃が走るくらいタイプだったんだよ。簡単に落とせると思ったんだけどさ、あいつ誰とも喋んないの。あ……一部の奴を除いてね。だから余計に俺の方が興味持っちゃった……俺がだよ? こんなの初めて。参っちゃうね」 高坂先生は俺を見てふふっと笑った。 「お前もそんなに可愛く笑えるんだな」 俺には先生の言っている意味がわからなかった。 「なんかね、あいつ好きな奴がいるみたいだから、そこから攻めようと思って……さっき爆弾送っておいたから今頃自信喪失して落ちてるんじゃないかな? もう少ししたら行ってみよっと」 高坂先生の眉毛が上がる。 「うわっ、さっきは素直そうないい顔してたのに……今度は嫌な顔になってるよ。志音くんの化けの皮、剥がれてる。嫌だなあ……可愛い志音くんの方が僕は好きなのにな」 「ほんと? じゃぁさ、もっと俺のこと好きになってよ、ふふ…」 全然そんな気はないのにこういう軽口も平気で叩ける。お互い冗談を言い合って、笑いながら「大人をからかうんじゃありません」なんて言うから笑っちゃう。 余裕たっぷりな高坂先生。このいつも甘えさせてくれる感じが居心地がいいんだ。 それにしても、ほんと偶然── あの日は早く仕事が終わって、さあ帰ろうと歩いていたら橘先輩と綺麗な女の人が腕を組んで歩いて行くのが見えた。 あれが彼女かどうかなんて俺にはわからない。近いうちにモデル仲間を使って隠し撮りをしようと思っていたから、手間が省けてラッキーだった。 今頃竜太君、どうしてるかな? 竜太君はあの橘先輩のことが好きだよね。 橘先輩も多分竜太君が好き。 でも君の相手は橘先輩じゃないよ。早く諦めて、俺のところにおいでよ…… ふと高坂先生の手が額に触れる。 「ぼんやりしてる顔も僕は好きだよ……」 そう囁き先生は横になってる俺の頭を撫でた。 なんなの? こんな事されたら、俺じゃなかったら速攻落ちるな。 「先生ったら、色男 」 俺は笑って高坂先生にウインクした。

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