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ぶつかる思い

「竜……大丈夫か? なにがあったんだ?」 康介が僕の肩に手を起き、覗き込んでくる。 「……話せるか? 」 心配そうに僕を見てるけど、涙が溢れてどうしようもない。言葉に出すのも怖くて泣けてきてしまう。 「竜? 聞いて…… 別に誰を好きになったって構わないんだよ? お前が女だったら、なんて誰も思っちゃいないし。本当にどうしたんだよ、急に……」 康介が何か言ってるけど、全然頭に入ってこないや。 やっぱりあれは彼女なのかな? なんか、お似合いだった。 周さんに確認するなんてとてもじゃないけど怖くてできない。 「家、帰る……」 僕は立ち上がり鞄を取る。少しフラフラしたけどなんとか歩き出した。 今まで感じたことのない、苦しくて気持ちが悪いこの感情をどう消化したらいいのかわからずにいた。 「おい!竜ってば!」 突然腕を強く掴まれ、一瞬我にかえる。見ると康介が怖い顔をして僕を見ていた。 「どうしたんだよ竜!しっかりしろって」 いいんだ…… 今の僕には説明する余裕なんか無い。 「ごめん!康介……ほっといて!僕、話したくない!」 掴んでる腕を振り払うように康介から逃れ、逃げるように僕は走り出した。 一人でいたい。誰とも話したくない…… 僕は足早に俯きながら道を歩く。少し日も落ち薄暗かった。今は何時なんだろう……帰るの遅くなっちゃったな。 ぼんやりとした頭は、徐々に色々考えることをやめていた。嫌なことはもう考えない。 僕は黙々と歩いていた。 歩く僕の影の隣にもうひとつ影が伸びる。横を向くと、微笑みかける志音がいた。 「どうしたの? なんか竜太君元気ない……」 「さっきのメール、なんであんなの僕に送ってきたの?」 意外に冷静に話せた……でも、首の後ろにジワリと汗が滲んだ。 「え? なんでって、ベストカップルに驚くかなって思って……びっくりしたでしょ? あれ? もしかして竜太君、橘先輩に彼女いたのもう知ってた?」 ………ダメだ。やっぱり涙が。 「あれ? 竜太君どうしたの? え……もしかして竜太君って」 志音が僕の顔を覗き込んで、潤んだ瞳を向ける。もう誤魔化しがきかないのはわかってた。 「そうだよ! 僕が好きなのは……」 「ねぇ、竜太君」 僕の言葉を遮り、志音が僕の肩を掴む。真剣な顔…… 「橘先輩は男だよ? あんなに綺麗な彼女だっているんだ」 そんな事ない!そんなわけない!僕のこと好きだって言ってくれたんだ。 そう、僕らはちゃんと付き合ってるって周さんは言ってくれた。 志音の言葉に心が拒絶反応を起こしてる。絶対そんなこと信じない!嫌だ嫌だと駄々をこねる子どものように僕はぶんぶんと首を振っていた。 急に視界が暗くなる。 ギュッと暖かい圧迫感に、志音に抱きしめられている事に気が付いた。 ……え? なんで? 「竜太君、俺は男でも大丈夫だよ。俺は竜太君のことが好き…… 竜太君がそんな悲しそうな顔するの……嫌だ」 僕を抱きしめる志音の手に力が入る。 ……志音、少し震えてる。 顔を上げると志音も少し泣いているようだった。 「し……志音?」 志音の胸から逃れるように腕を突っ張ると、ハッとしたような志音が僕から離れた。 「……ごめん、つい。こんなことして、俺のこと気持ち悪い?」 凄い悲しそうな顔を見せられ、胸が苦しくなってくる。 いつもは笑顔で、自信に満ちている志音がこんな顔を見せるなんて思っても見なかった。 「気持ち悪くなんかないよ。志音、そんな悲しそうな顔しないで……」 涙が溢れそうな志音の頬に思わず手を添え笑いかけた。志音の意外な一面に驚き、僕の悲しみが少しだけ薄れたような気がする。 「ありがとう……また明日ね」 志音は僕から慌てて離れ、そう言って手を振り帰って行った。

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