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嘘
びっくりした。まだドキドキしてる……
志音が僕のことを好き?
「男でも大丈夫だよ」そう志音は言っていた。
男でも?
僕は男だから、とかじゃなくて周さんだから好きなんだ。男とか女とか正直言って関係ないんだ。
でも周さんはそうじゃない……だから女の人と?
僕は家に帰ってからも頭がぐるぐるしてしまって何もやる気になれなかった。
僕は次の日 学校を休んだ──
志音と康介からは僕を心配するメールが来ていたけど、返信はしなかった。夕方には康介が家に来たけど、母さんに追い返してもらった。色々聞かれるのが嫌だったから僕は逃げたんだ。
ごめんね、康介。
一日だけ休んで、次の日からはちゃんと学校に行った。康介は普通に「おはよう」と声をかけてくれる。僕に気を遣ってか何も聞いてこない。僕も軽く挨拶をして、そのまま自分の席についた。
志音が僕の前に座る。
僕の顔を覗き込み、やっぱり志音も笑顔でおはようと挨拶をしてくれた。志音は人気者だからいつの間にかクラスの数人が僕と志音のまわりに集まる。他愛ない話をガヤガヤとしている。志音も楽しそう。僕が皆んなの会話に入らなくても、志音の取り巻きにとってはどうでもいい事のようで、今の僕にとってこの状況はとても楽だった。
ふと携帯が小さく震える。見ると周さんからのメッセージが入っていた。
『次の休み時間、旧部室で待ってる。久しぶりだな』
僕はそれをチラッと読んで携帯の電源を切った。志音はそんな僕に何か言いたそうな顔をしたけど、またすぐに取り巻きとの会話に戻った。
久しぶりだな……
そうだね、一週間くらい会ってない。
僕は次の休み時間も教室にいた。周さんと会ったところで僕はどうしたらいいんだ?
周さんに本当の事を聞くのが怖い。だからと言って知らないふりして今まで通りに接することなんて僕にはできそうもない。顔を見たら絶対泣いてしまうだろう。
下を向き溜息を吐いたら志音が優しく頭を撫でてくれた。
「まだ元気がないから……俺はいつでも竜太君の味方だからね」
僕に向かって小さく囁く志音にありがとうと僕は言いながら、視界の隅に康介の心配そうな顔を捉えていた。
昼休み、教室まで周さんがやってきた。僕が無視したからか少し怒ってる。
「竜太、どうした? 昼飯行こうぜ」
周さんは不機嫌そうだけど、さっきの事には触れずにお昼に誘ってくる。僕は席から立つことはせずに、窓の方を向き周さんから顔をそらした。ずかずかと荒っぽく近づいてくる周さんの気配に心が騒つく……
「おい、どうした? 竜太?」
今度は優しい声。いつまでも外方を向いてる僕の肩に手を置いた。
「今日は……いいです。志音とお昼行くから……」
僕は目に涙が溢れそうになるのを堪え、周さんの手を払う。声が震えてしまった。志音と約束なんかしてないのに、周さんに嘘をついてしまった。
「はぁ? 何言ってんの? 竜太……行くぞ!」
少しイラついた様子の周さんは僕の腕を掴もうと手を伸ばす。僕が避ける前に志音がその腕をさっと払った。
「すみません。今日は竜太君、俺とお昼に行くんです」
志音がどんな顔をして言ったのかわからない。僕はもう泣きそうで顔を上げることができなかった。
周さんは何も言わず教室から出て行った。教室が少しどよめいている。
僕は感情が暴走しそうで苦しくなり、胸をぎゅっと掴んだ。
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