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友達
今日は土曜日。
僕は志音と一緒に買い物に来ている──
「竜太君、いつまでも落ちてないでさ……気晴らしに俺とお出かけしようよ。そうだ!土曜日、暇? 俺さ、買い物したいから竜太君付き合ってよ! 」
屈託なく笑いながら志音が僕に言う。僕の気持ちを盛り上げてくれようとしてるんだろうけど、全然そんな気分になれない。そもそも出かけるなんて疲れるだけだとしか思えなかった。
僕が返事を渋っていると、志音は少しふくれっ面をして「どうせ暇なんでしょ!」と僕に言う。 まぁ、ほんとに暇だし、気分転換にもなるんなら……と、僕は志音の誘いに乗る事にしたんだ。
こうして休みの日に友達と買い物に行くこと自体、僕にとっては珍しいことで、なんか変に緊張してしまう。そんな僕にお構いなしに志音は色んなショップに足を進めた。
志音は足が長いからか、歩くのが早い。目的のお店も決まっているのか、ずんずんと先に行ってしまう。僕はついていくのがやっとだ。見ていると、志音はアホみたいに買い物をしている。ストレス発散……なのかな?
どんだけ買うんだろう?
僕の呆れ顔がわかったのか、志音は僕の顔を見るなり「買い物が久々で嬉しくて張り切っちゃった!」と、照れ臭そうに笑った。
凄い荷物になってきたので、持つのを手伝おうとしたら断られた。それより、疲れたし俺の家でお茶でもどう?って志音が言う。
確かにたくさん歩いて喉も乾いた。お言葉に甘え、僕らは志音の家に向かった。
志音の住んでるのはなんだかお洒落なマンションだった。志音はここのマンションで一人暮らしをしてるらしい。一人暮らしって気楽でいいよね、と言うと、学校行って仕事して寝に帰ってるだけだから……なんて言って笑う。
ああ、そうだった。志音はモデルのお仕事してるんだっけ。忘れてた。
マンションに入りエントランスでエレベーターを待っていると、誰かに後ろから声をかけられた。
「あれ?……竜太君?」
突然名前を呼ばれ驚いて振り返ると、そこには圭さんが買い物袋をぶら下げて立っている。ちょっと混乱。なんで圭さんがここにいるんだ?
「え? 圭さんどうしてここに?」
「いやいや、それは俺のセリフだって。俺はここに住んでんの。それよりどうしたの? ……てか、康介君や周は?」
圭さんにとって、僕のそばに康介や周さんがいないのは不思議な事のようだ。
ちょっと胸がきゅっとする。
「僕だって康介以外の友達と一緒にいることくらいあります!」
思わず声が大きくなってしまった。
圭さんは驚いたようにぽかんとするも、すぐに志音の方を向き自己紹介を始める。志音も圭さんに挨拶をすると、おどおどしてしまった僕の肩を抱き、到着したエレベーターに乗り込んだ。
振り返ると、志音の行動に驚いたのか固まってエレベーターに乗りそびれた圭さんの姿が眼下に消えた。
エレベーターの中でも志音は僕の肩を抱いたまま……片手には大荷物、もう片方の手には僕を抱いてる。
「志音?離して……」
僕は志音の肩から逃れ、やっぱり重たそうな荷物を持つのを手伝った。
志音の部屋に入ると、寝に帰ってるだけ……と言うだけあり、スッキリと綺麗に片付いている。片付いている、というか物も少なくて生活感があまりない感じがした。
「志音らしい綺麗な部屋だね」
僕が言うと、なんだか照れ臭そうに顔を赤らめ「コーヒーでもいれるよ」と言いながら志音はキッチンへ消えて行った。
ソファに腰掛け部屋を眺めていると、すぐに志音がコーヒーを持ってこちらに来る。
「実はさ、友達を部屋に入れるの初めてなんだ」
少し赤い顔をして志音が僕を見つめている。
「ていうか俺、今まで部屋に招待できるほどの友達なんて出来たことなかったからさ……」
え…?
あんなに人気者の志音が?
志音の表情を見て、あぁ 志音はきっと心を許せる友達がいなかったんだな……と、僕はなんとなくそう思った。
それから僕と志音は、先程山のように購入した洋服やらアクセサリーやらを袋から出して、他愛ない話をした。
志音はモデルだけあってやっぱりセンスがいい。次から次へと出てくる洋服やアクセサリーはどれもこれもお洒落なものばかりだった。
志音を見ると、とても楽しそう。
急にふと真剣な顔つきになり、志音は僕の方へ体を寄せてくる。僕の手を握り、俯き加減で話し始めた。
「こないだ俺は竜太君が好きって言ったけど……本気だよ。竜太君にはいつも笑っていて欲しい。俺なら竜太君を悲しませたりはしない」
握った手に力が入る。そのまま志音は僕の首元に顔を埋めた。
「愛してるんだ……本気だよ」
耳元で囁かれ、ゾクっとして思わず吐息が漏れてしまった。途端に耳を甘噛みされ、強く抱きしめられ押し倒される。驚いて志音を見ようと顔を向けると、あっという間に唇を塞がれた。
志音の舌が、驚いて開いてしまった僕の口に遠慮なく侵入してくる。
口内を志音の舌で犯され、僕の頭の中は真っ白になっていく……
強く手を握り、激しくキスをしてくる志音。
嫌だ!
僕は周さんが好きなんだ。
周さん以外の人にこんな事させちゃいけない……
必死に顔を背け志音の口付けから逃れると、頬に温かいものが落ちた。
見上げると、志音が涙を流して泣いていた。
志音がなぜ涙を流していたのかなんて考える余裕もなく、僕は慌てて志音の家を出た。
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