85 / 432

理解

真っ赤になって俯く僕の代わりに、修斗さんが雅さんに説明をしてくれた。 「竜太君、雅さんが周の彼女かと勘違いしてたんですよ。最近会えなかったから余計に……」 雅さんはポカンとしたけど、すぐに理解して笑ってくれた。もう情けないやら恥ずかしいやら。僕はただただ「すみません」としか言えなかった。 「周の彼女だなんて光栄だわ。 でも……それで竜ちゃん泣いちゃうってどういうことかしら?……あ! あれ? もしかして……」 雅さんは首を傾げニコッと笑う。 どうしよう……と返事に困るも、きっと雅さんはわかってる。 「そういうことね! もう! 竜ちゃんやっぱり可愛いわ!」 そう言ってまた僕のことを抱きしめた。この人の距離感の近さに戸惑ってしまう。でも全然悪い気はしない。寧ろちょっと嬉しかった。 「こないだの旅行で周にお土産買わせたの竜ちゃんでしょ? あれ凄い嬉しかったわ! ありがとうね」 突然お礼を言われてしまった。喜んでくれてよかった。僕も嬉しい。 「竜ちゃんと出会ってからね、周ったらちょっとだけだけど素直になってきたのよね。竜ちゃんの話も聞いてたわ。凄い可愛がってるお友達かと思ってたけど……ふふ、特別な子だったのね。納得ね 」 雅さんは笑いながら僕を見る。「これからもよろしくね」と言ってから少し黙り込み、突然怖い顔をした。 「てか、あの野郎、また学校行ってないの? バイト増やしてると思ったら、またあたしのせいにして!」 雅さん、美人だから怒るととっても怖い。僕は思わず後ろに下がってしまった。バイト増やしたって? 学校来れないほど増やすなんてどういうことなの? 「雅さん、周バイト増やしたんですか? なんで?」 修斗さんが僕の思ったことそのままを聞いてくれ、雅さんは溜め息を吐きながら教えてくれた。 「あたしついこの間まで入院してたのよ。盲腸なめてた。少し我慢してたら悪化させちゃってさ、入院長引いちゃったのよね。退院してからも仕事減らしたんだけどさ、多分それで周ったらバイト増やしたんだと思う……」 膨れっ面をして、雅さんは話を続ける。 「周にバイト増やしてもらわなくたって全然生活出来るっつうの。アイツあたし理由にして、すぐ学校サボりたがるんだからムカつくわ!」 言いながら僕の方を見て優しい顔になる雅さん。 「それでこんなに可愛い竜ちゃん泣かせて馬鹿な周!」 そう言ってもらえて嬉しかったけど、でも勝手に勘違いしたのは僕だから周さんは悪くない。 それより、雅さんは僕が周さんと付き合ってるという事に疑問はないんだろうか……お母さんとして許せることなのだろうか。少し疑問に思ってしまった。 「あの、お母さ……」 「雅さん! 雅って呼びなさい!お母さんじゃありません!」 「……あ、はい」 お母さんと呼ぼうとしたら怒られてしまった。 「お母さんだなんて、ババくさいでしょ? 嫌よ、雅って呼んで頂戴 」 別に全然ババくさいなんて思わないけど、名前で呼ばせたがるなんてちょっと可愛い、なんて思ってしまった。あ、だから圭さんも修斗さんも雅さんって呼んでるんだ…… 「……で? なあに? 竜ちゃん」 「あの……僕と周さんが特別な関係だって……恋人同士だってことでもいいんですか?嫌じゃないですか?」 恐る恐る聞いてみる。 雅さんの返事が怖かった。はっきり自分から「恋人同士」と言ってしまったけど、もしかしたら雅さんの言ってくれた僕に対しての「特別な子」は、恋人ではなく親友、みたいな位置付けで言っただけかもしれない。僕が勝手に理解してくれたと勘違いして早まってしまったのかもしれないと、そう思ったから。 雅さんはキョトンとしてる。 「いいもなにも……周が竜ちゃんの事が大好きで、竜ちゃんも周を大好きなら本人達の勝手だし、竜ちゃんは周の事大事に思ってくれてるんでしょ? 相思相愛なんでしょ? 大切だと思ってくれてるから周の事もちゃんと叱ってくれる……違う?」 僕は「 はい! 周さんが大好きです」と雅さんにはっきりと言った。ちゃんとわかってくれていた。わかった上で認めてくれた! もうそれだけで僕は涙が出るほど嬉しかった。 でも少し恥ずかしい…… 「周、竜ちゃんの事話をしながら凄い喜んでたよ。俺より小さくて弱っちいのに、ちゃんと俺を思って叱ってくれるって。そんなん聞いたらあたしも嬉しいじゃない? あたしが言うのも何だけどさ、アイツ難しいところあるし面倒くさいでしょ? わがままだし……ホントこれからも周の事、よろしくね」 なんだか、今まで頭の中がぐるぐるしていたこと、悩んでたことが凄いバカらしくなってきた。有り難いし嬉しいし、何より早く周さんに会いたかった。 酷い態度をとってしまった周さんや康介、志音にちゃんと謝らなきゃ…… 志音、傷つけちゃっただろうな。 「圭さん、修斗さん……心配かけてしまって、本当にごめんなさい。ここに連れてきてくれて、本当にありがとうございます」 僕は心底反省し、二人に頭を下げて謝った。 「これからは一人で抱え込まないでちゃんと俺らに相談しろよ」 そう言って圭さんと修斗さんは笑ってくれた。

ともだちにシェアしよう!