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ごめんなさい
周さんの家を出て、圭さんと修斗さんとは別れ僕は自分の家に向かう。
すっかり日も沈み、もう辺りは薄暗かった。
僕の気持ちはスッキリと晴れたけど、きっと周さんは訳がわからずモヤモヤしているはず。早く周さんに伝えたい。僕の勘違いで酷い態度をとってしまってごめんなさい、と……
どうしてもこのまま真っ直ぐ家に帰る気にはなれなかった。僕はバッグから携帯を取り出すと、周さんにメッセージを入れた。
気がついてくれるといいけど……
周さんの家の近くにある公園で待ってます──
それだけ入れて、僕は周さんを待つことにした。
返事が来なくてもいい。
会えなくてもいい。
待てるだけ、僕はここで周さんを待とう……
今日会えなくてもまた明日も連絡をしよう。
公園のブランコに腰掛けぼんやりと足をブラブラしていると、向こうから周さんが歩いてくる。
よかった。ちゃんと会えた……
周さんは僕の方をチラッと見ても表情は変わらない。でも真っ直ぐ僕の方に向かって歩いてくる。
どうしよう……
ドキドキしてきた。とりあえず、謝らないとね。
周さんが無言で近づいてくる。僕は堪らず立ちあがり周さんの方へ急いで走った。そして深く頭を下げて「周さん!ごめんなさい!」と謝った。
……沈黙。
ドキドキしながら恐る恐る顔を上げると、赤い顔をした周さんが僕を見下ろしていた。
「周さん?」
「………マジ、ふざけんな」
あ、どうしよう……周さん、ごめんなさい……
もう一度顔を伺い見ると、周さんの目から涙が零れた。
驚いて僕は思わず周さんに抱きついてしまった。
嫌だ……僕が勘違いしたばっかりに、周さんを泣かせてしまった。
「ごめんなさい! 周さん……ごめんなさい」
周さんは動かずに小さく息を吐く。
「……もう、こういうのやめてくれ。何が何だかわからないのは心臓が止まる思いだ。怖えから俺から離れないでくれ……頼むよ。な?」
僕は周さんの胸にしがみつき、コクコクと頷いた。
「とりあえず、俺んち行くぞ……」
周さんは僕の腕を掴み、歩き出す。その力強さに僕はただ引っ張られるだけで止められない。今から行ったらまた雅さんに会ってしまう。帰ると言っておいとましたのに、また戻るのはちょっと気まずい。
「え……と、さっきまで僕周さんちにいたんだけど。きっと雅さんが……」
「竜太、俺んちいたの? え? 何で? ……でも今日はおふくろ夜勤あるから今頃はもういないよ」
周さんの言葉に少しホッとして、僕らは周さんの家に戻った。
周さんの言う通り、家に着くと雅さんの姿はもうなく、部屋は静まり返っていた。
周さんは冷蔵庫から何かのペットボトルを出し、直接飲みながら床に座る。
また沈黙……
胡座をかいて座っている周さんから少し離れて僕も座った。
何か喋らないと…と考えあぐねていたら、周さんが口を開いた。
「なぁ、竜太……何で俺を避けてた? 何か気に障ることしちゃったか?」
違う。僕の勝手な勘違い。ドキドキしちゃって上手く喋れない。ちゃんと説明しないときっと周さんは意味がわからないまま。
「ごめんなさい」
それでも謝罪の言葉を発するのがやっと。僕は何からどう話せばいいのか頭の中がごっちゃになってしまっていた。
周さんが僕を見て、無言で手招きするのでおずおずと側に寄る。周さんは自分の前に僕を座らせると、ゆっくりと目を見て優しく笑った。
「そのごめんなさいの理由が知りたいんだ、俺は……」
聞かせてくれ、と言われ、僕は勇気を出して話し始めた。
「周さんが女の人と腕を組んでるのを見て……ショックで。僕は男だけど……でも周さんの事好きで、周さんが僕じゃなくて他の人が好きなら、それは諦めなきゃいけないんだけど……でもそれも嫌で、その女の人の事、周さんに確かめたくても怖くて出来なくて……どうしていいかわからなくなって……僕、僕……」
頭の中が整理出来ないうちに話し始めてしまった僕は、案の定話しながら訳が分からなくなってくる。だから勿論周さんにとっても訳が分からない。凄く不思議そうに周さんが僕を見つめた。
「……あのさ、言ってる事が全然意味がわからないんだけど。俺が? 女と?」
あ、肝心なこと言うの忘れてる。
「違うんです! ごめんなさい。僕の勘違いで、女の人は雅さんで……雅さんが周さんの彼女だと思って……」
「はぁ? なんだよそれ? わかるだろ! おふくろと俺、同んなじ顔だぞ!」
確かに近くで見たら周さんと雅さんは凄いよく似ている。でもあの写真だけじゃ分からなかったんだ。とても綺麗な女の人、としか。
「まぁ、でも普通は親子で腕組んで歩かないわな。あいつすぐベタベタするんだよ。いちいち距離が近えの。誤解させちまって悪かった……」
そう言って周さんは僕に頭を下げてくれた。そして僕をぎゅっと抱き寄せ、キスをする。
「でもありがとな、竜太。事情がわかって俺ちょっと嬉しいよ」
僕は何で周さんが喜んでるのかわからない。不思議に思いながら顔を上げ、周さんを見た。
「だってそれって ヤキモチ だろ? 嫉妬してくれたんだろ?……そりゃ嬉しいじゃん」
ヤキモチ、嫉妬……
「え……と、わからないです」
周さんは目を丸くする。
「はぁ? 分からないってなんだよ。ヤキモチだろ? モヤモヤしてクソって思っただろ? 俺のこと、そんだけ大好きなんだろ?」
そう、周さんの言う通り。
この初めて味わったこの感情はヤキモチと嫉妬……そうなんだ。
こんなに胸がチクチクして、息苦しく不安な気分になんかなったことがなかった。
「僕、こんな感情初めてなんです…… 怖かったです」
思い出すだけで悲しみに包まれる。僕は俯きながらそう呟くと、周さんは優しく頭を撫でてくれた。
安心する──
ホッと胸が暖かくなる。
こうしてまた周さんと一緒にいられてよかった。僕の誤解、早とちりで本当によかった。
「竜太、これからも俺と一緒に色々初めてを経験してこうな。……あ! 不安になるようなことは無しだぞ。俺だって竜太と付き合って初めてな事ばかりなんだから」
周さんはそう言ってはにかみながら、僕に優しくキスをした。
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