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志音の隠れた気持ち

今週は仕事が多くて殆ど学校に行けてない。 やっと今日登校するも、どうにも教室に行き辛く俺は屋上で時間を潰した── 大好きな竜太君をなんとか落とそうと俺は考え、たまたま撮ることができた橘先輩の写真を使って弱みに漬け込もうとしていた。竜太君がショックを受けるとわかっていたから。 写真を送ったすぐ後に、俺は下校を待ち伏せた。なかなか教室から出てこないからちょっと心配したけど、しぶとく待っていたらトボトボと出てくる姿が見えたので安心する。しばらく後をついて行っても竜太君は全く俺に気がつかなかった。 思った以上にショックを隠せていない竜太君を見て胸が痛んだ。「男同士の恋愛はおかしいんだ」と思い知らせ、どん底に落としてから俺が竜太君に手を差し伸べる算段……俺なら君を悲しませない。俺なら竜太君にこんな顔させない、と伝えたかった。 俺は物心ついた時から性的な対象は同性だった。女も大丈夫だけど魅かれて目で追う対象はやっぱり同性の男。自分は異常だと思い悩んだ時期もあったけど、今ではどうでもよくなっていた。 モデルの仕事を始める前から、女からも男からもちやほやされるようになり、正直恋愛相手には不自由はしなかった。でも自分から真剣に好きになるなんてことは今までなかったんだ。誰かと付き合っていても気持ちが満たされる事はなかった。恋愛なんてそういうものだと思っていた。求められればそれに答える。でも俺から何かを求めるという事はほとんど無かった。 俺は作戦実行とばかりに少し意地悪く竜太君に写真の事を話し、橘先輩は男だよと詰め寄った。そして泣きそうになる竜太君を思わず抱きしめ、告白をした。その瞬間、俺は自分の中で違和感を覚え不安になった。 「……俺のこと気持ち悪い?」 泣きそうな竜太君を思わず抱きしめてしまったものの、俺は竜太君と同じ男だ。俺は良くても竜太君はどう思うだろう?と、瞬時に頭を過ぎり不安になってしまった。俺は怖くなってしまったんだ。 「気持ち悪くなんかないよ。そんな悲しそうな顔しないで……」 竜太君はそう言って笑ってくれた。自分は酷く悲しんでるくせに、俺のことを気遣って笑ってくれたんだ。「気持ち悪くない」とそう言ってくれた。 凄い嬉しかった。 それと同時に凄い罪悪感に襲われた。 ……なんでだ? 「ありがとう……また明日ね」 俺は竜太君から離れ、ドキドキしながら家に帰った。 次の日竜太君は学校を休んだ。それだけショックだったんだろう。自分で吹っかけておきながらどうしても胸が痛くて辛くなった。 一応竜太君にメッセージを送るもやっぱり返信はない。心配だったけど休んだのはその日一日だけで、次の日からは普通に登校してきたから安心した。 なるべく告白の事は考えないように、普段通りに竜太君に接する。 これからは友達として竜太君に心を開いてもらうんだ。 集まってくる他の連中と他愛ない話をしていても、竜太君は心ここに在らずで全く会話に参加してこない。目の前にいるのに竜太君だけ別のところにいるみたいだった。 胸がチクチクする。 竜太君がふと携帯に目をやり、そのまま無視して電源を切る。その表情を見て橘先輩からだとわかってしまった。 昼休み、教室が騒つき見てみると橘先輩が廊下に立っている。橘先輩はその場から竜太君を昼に誘った。竜太君を見ているといまにも泣きそうな顔をして無視をしている。橘先輩はイラつきながら教室に入ってきて竜太君に話しかけるけど、竜太君は頑なにそれを拒んでいた。痺れを切らし無理矢理連れて行こうとして竜太君の腕に手を伸ばした瞬間、俺は咄嗟に手を出しそれを阻止した。 ……竜太君に触るな! 自分のした事は棚に上げ、竜太君を悲しませているこの先輩に怒りがこみ上げる。嫉妬心すら覚えた。「竜太君は俺と昼に行くから帰れ!」そう言わんばかりに睨みつけてしまった。 これは流石にキレられるか殴られるかするだろうと思ったけど、意外にも橘先輩は黙ったまま教室から出て行った。でもその顔がとても寂しそうで悲しげで、俺はまた胸がちくっと痛んだ。

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