88 / 432

恋の終わり

土曜日、俺は竜太君を誘って買い物に出た。あまりの竜太君の落ち込みようが見ていられなくて、気分転換にもなればと本気で思った。勿論休日に二人で過ごしたいという下心もないとは言い切れなかったけど…… 俺は友達と出掛けるというのも初めてだったし、デートみたいで凄く嬉しかった。 洋服を買ったんだけど、これは竜太君に似合うかも…… これを竜太君に着せてみたい……とか考えていたら、めちゃくちゃ馬鹿みたいに買ってしまった。付き合ってもいないのに、流石に洋服なんかプレゼントしたらドン引きだよな。 そう、俺たちはただの友達…… 荷物も多かったし、まだ竜太君と一緒にいたかったのもあって、俺は家に誘った。竜太君は何も怪しむこともなく俺についてきてくれた。少しは警戒されるかなと思ったけど、全然そんな事はなかった。嬉しかったけど、こんなに無防備なのもちょっと心配になる……素直なところが竜太君のいいところなんだけどね。 エレベーターを待っていたら知らない奴に声をかけられた。赤い髪のその派手な男が、竜太君の知り合いだと聞いて更に驚いた。 そいつの口から康介君と橘先輩の名前が出て、俺は現実に引き戻される。竜太君の顔が強張ったのがわかった。 「僕だって康介以外の友達と一緒にいることくらいあります!」 柄にもなく大きな声をあげる竜太君。でもすぐにおろおろと不安そうな表情を見せた。俺はその人から竜太君を隠すように肩を抱き寄せエレベーターに乗り込んだ。 部屋に入るとさっきの事は忘れたように竜太君は明るい顔に戻った。 それを見てよかった……とホッとする。 自分の部屋に他人を入れるの初めてだ。そもそも俺は部屋に招待するような友達なんていない。でも竜太君は俺のことを友達だと言ってくれた。 嬉しかった。 本当は友達じゃなくて恋人になりたいけど……それはきっと叶わない。 竜太君は楽しそうにしてるけど、心の中はそうじゃないよね? 急にまた胸が苦しくなってくる。俺は色々小細工までして竜太君を振り向かせようとしたけど、最初は軽い気持ちだったはずなんだけど…… 胸が苦しくてこんなにも切ない。 きっとどうあがいても竜太君は俺の方を振り向く事はない。自分でもわかってる。 これ以上、好きな人を傷つけちゃいけないよな。終わりにしなきゃいけない。俺の恋は終わらせなきゃダメなんだ。 でも最後のあがき…… 「こないだ俺は竜太君が好きって言ったけど……本気だよ。竜太君にはいつも笑っていて欲しい。俺なら竜太君を悲しませたりはしない」 竜太君を抱きしめ、「愛してるんだ……本気だよ」そう最後の告白をした。俺が耳元で囁いたせいか、竜太君から小さな吐息が漏れる。その瞬間俺は一瞬理性を欠いてしまった。 思わず耳朶を噛み、キスをする。愛しい人と交わす口付けがこんなに悲しいなんて思わなかった。心の中で何度も何度も「ごめん」と謝る。やってることと気持ちがチグハグで、胸が張り裂けそうだった。 涙が溢れる。俺は最低だ…… 竜太君が俺から離れ、黙って部屋を出て行く後ろ姿を俺は静かに見送った。 それから数日── 運が良いのか、その後は仕事が忙しくなり学校をしばらく休んだ。学校に行かなくて済んだから、竜太君と顔を合わせることもなく数日が過ぎる。 久々に登校するも、どうしても教室に向かうことが出来ずに屋上へ逃げ、結局今は保健室のベッドの上。 保健医の高坂先生が机で書き物をしながら俺の方を見向きもせず、「久しぶりだなあ」と声をかけてきた。俺は先生とも話をする気になれず、無視をしてベッドの中に潜り込んだ。 少ししてベッドの横に人の気配。 俺は布団に潜り込んだままなのでわからないけど、きっと高坂先生が横に座ってるんだろう。 「元気ないなぁ。どうしたの?」 俺は答えない。 「人生初めての失恋……かな?」 布団の上からポンポンと優しく背中を叩かれる。 そうだ……失恋。失恋だけならまだよかった。初めて真剣に好きになったんだと思う。でも恋は叶わなかった。自分の馬鹿な行動でもう友達ですらいられなくなってしまった。初めての友達……それも失ってしまった。 ……辛過ぎる 「志音? 今は誰もいないから、泣いてもいいよ。 僕みたいな人間の前なら素直になっても大丈夫だから……」 「なんだよ、先生……優しくすんな」 もう涙がこみ上げてきてダメだった。耐えきれず俺はベッドに潜ったまま泣きたいだけ泣いた。先生はその間何も言わずにずっと背中をさすってくれた。その手がとても温かくて余計に俺は辛かった。 「……君を見てるとなんだかほっとけないんだよ」 そう言いながら、ベッドから先生の気配が遠ざかる。 俺は涙を拭い、小さく「ありがとう」と呟いた。

ともだちにシェアしよう!