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日常へ
周さんの彼女騒動は僕の勘違いだったことで幕を閉じた。もともとは志音があんな写真を送って来たのがいけないんだけど……でも、ちゃんと確かめなかった僕が悪い。
志音が写真を送って来たことは、みんなには内緒にした。その事で志音がみんなから悪く思われてしまうのは嫌だったから。
せっかく友達になれたんだ。
志音は僕の事が好きだと言ってくれた。でもそれは恋愛対象としての好き。僕が周さんに対して思う気持ちと同じ意味の「好き」だ。僕はその志音の気持ちに答えることは出来ないけど、志音が僕のことを友達として認めてくれるのならとても嬉しいと思う。
少しの時間だったけど、志音と一緒にすごしてみてわかったことがある。志音は強そうに見えて実はとても弱い人なんだと。よくわからないけど、自分を出せずに沢山我慢して自分を作っているように見えた。
僕の前で数回見せた志音の自然な表情。きっとあれが本当の志音の顔なんだ。
もっと志音の力になりたい。そう思った……友達としてね。
教室に入ると康介の姿が見えた。急いで康介の所へ駆けつけ、僕は今までの事を謝った。
「康介、心配かけてごめんね。僕……凄い嫌な態度だったと思う。本当にごめんなさい」
康介は黙って僕を見ていたけど、すぐに笑顔でうんうんと頷いた。
「悩みは解決したの? もう大丈夫?」
そう聞いてくれた康介に、僕は笑顔で「うん!」と答える。こんな僕に康介は優しく笑ってくれる、心配してくれる。「ありがとう」と感謝の気持ちをもう一度康介に伝え、僕は自分の席に着いた。
今日も志音は休みかな?
空いている志音の席を見る。志音の席を通した先の廊下に見慣れた人影が横切った。
「あ……志音?」
志音は教室を素通りして何処かへ行ってしまった。結局この日志音が教室に来ることはなかった。
昼休み、僕は康介と一緒に屋上へ行く。今日は周さんも修斗さんも一緒だった。なんか久しぶりで嬉しい。僕はいつものように周さんの膝の間に腰掛けた。
「ねぇ、志音君どうしてる? 最近見ないよね。元気にしてるの?」
突然修斗さんにそう聞かれ、僕は返事に少し戸惑う。ここ数日は休んでいたけど、さっき見かけたから今日は来ているはず。それでも教室に来ないのはやっぱり顔を合わせ難いのだろう。
「……志音ってやつさ、竜太の事好きだろ?」
周さんが静かにそう言って僕は驚いてドキッとしてしまった。ドキッとしたの、周さんに伝わってしまったかな? 心配になって恐る恐る振り返る。今まで屋上で志音と何度か一緒だったと時も、周さんは殆ど志音とは話さなかったのに、関心なく目すら合わせてなかったのに……なんでわかったんだろう。
「さすが周だね。俺も最初彼を見た時あれれ? って思ってたんだよね。お昼よく来てたじゃん? その時の雰囲気とかさ……やっぱりそうなの? 竜太君」
修斗さんがニコニコして僕を見る。修斗さん、わかってるのに意地悪だ……
康介は我関せずで、さっきから無言でお弁当を食べている。
「志音が僕のことをどう思ってるかはわからないけど、僕は志音のこと好きですよ。もちろん友達としてですけど。志音が僕の事を好きだとしても、僕の気持ちはそれ以上でもそれ以下でもないです……」
僕の腰に回っていた周さんの手に力が入ったのがわかった。
「志音も大事な友達です」
僕は伺うように後ろを振り向き、周さんの顔を見る。
「竜太がそう言うなら、志音も大事な友達だな」
周さんはふふっと笑って僕の頭の上に手を置きそう言った。
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