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大切な友達

次の日志音が教室に来た。 僕は話がしたくて、こないだの事を謝りたくて、志音の方へ行こうとしたけどすぐに志音は取り巻き達に囲まれてしまった。 久しぶりだね、何してしたの? 仕事? 大変だね、会いたかったよ…… 口々にみんなが志音に言っている。でも言われている当人は上の空で適当に返事をしているようだった。 しばらくすると人集りが志音の周りから消え、やっと一人になったから僕はすかさず声をかけた。 「志音、話があるんだ。ちょっといい?」 一瞬、志音の顔が曇った。ここじゃ話し難いからと、僕は席から動こうとしない志音の腕を掴み屋上まで歩いた。 始業のチャイムが鳴ったけど無視をする。たまには僕だってサボってもいいよね。 誰もいない屋上で奥のベンチに志音と座る。志音はさっきから黙ったままで俯いてるし、僕の顔を見ようともしない。僕はそんな志音の顔を見て話し始めた。 「……志音?こないだは黙って出て行ってごめんね。ちょっと驚いちゃって……逃げるように出て来ちゃって、ほんとごめんなさい」 志音がチラリと僕を見る。その目には怒りが篭っているように見え僕は少し怯んでしまった。 「いや……なんで竜太君が謝るの? おかしくね? 酷いことしたのは俺でしょ。キスなんかしちゃって……気持ち悪いことしてごめんね。もう顔も見たくないよね、ほんとゴメン……」 赤い顔をしてまた俯いてしまった。 「気持ち悪くなんかないよ。でも……僕は周さんが好きだから、他の人とそういうことは出来ないよ。周さんとしかしたくないし。あ!そうだった! あの彼女ね、周さんの彼女じゃなかったんだよ」 志音は驚いた顔でこちらを見た。「本当に?」と言う志音に僕は笑顔で頷く。 「うん! 彼女じゃなかった。僕、周さんに好きな人が出来て、それが僕じゃなかったら……好きだけど周さんを諦めないといけないんだ…って思って凄い辛かった。好きなのに、その相手が自分じゃない人を好きだと思ったら、もうどうしていいのかわからないくらい酷く辛かった……」 志音がジッと僕を見ている。 「だから、僕のこと本気で好きって言ってくれた志音の気持ち、僕にはよくわかる……でも、ごめんね。僕は志音の気持ちにこたえてあげられない」 言いながら勝手に涙が込み上げてくる。泣きたいのはきっと志音の方なのに……僕が泣くなんて失礼すぎる。 慌てて僕は下を向き、涙目を誤魔化した。 「こんな僕が言うのもおかしいんだけど、だから志音の事が心配なんだ……やっぱり志音には笑っていてほしいし。大事な友達だから、僕はこれからも志音と仲良くしていきたいんだ」 下を向く僕の顔を志音が覗き込んで来た。 「……大事な友達? 君は俺のことを友達だって言うのか?」 志音は驚いた顔をしてる。当たり前じゃないか。志音は僕の大切な友達だ。 僕は黙って頷くと、志音はまた黙ってしまった。 志音の事をフッた僕がそんな事を言って、もしかしたら志音は怒ってしまったのかと思った。そっと志音の顔を見ると、志音は俯いたまま声を殺して泣いていた。 綺麗な瞳から、大粒の涙がポロポロと落ちる。 「あ……ごめん! 志音、泣かないで……」 慌てて僕は志音の手を握る。 志音はふるふると首を振り、泣き笑いして僕を見た。 「違う……悲しくて泣いてるんじゃないから安心して。俺、竜太君に嫌われたと思ってたから……合わせる顔がないと思ってたから嬉しくて。あんな酷いことしたのに……ほんとにごめん」 志音は深く頭を下げる。 「いいんだよ、もう謝るのやめて。僕もよかった……志音とまた話せて。あれから全然学校来ないんだもん。心配しちゃったよ」 「あ、仕事がたまたま続いたから……でも一日は学校来たけど、ずっとサボってた……だって気まずいだろ?」 そうだったんだ……と、お互い笑顔で笑い合う。ちゃんと志音と話せて良かった。 志音の涙がおさまるまで、僕は黙って志音に付き合った。 「志音、教室戻ろうか?」 「いや、俺は保健室行ってくる。目が腫れてない? 泣いたすぐ後に教室は行きたくないや」 そう言って、志音は先に屋上から出て行った。 僕は志音が出て行ったのを見送り、一呼吸置いてから教室に戻ろうと立ち上がる。すると突然目の前に修斗さんの姿があって、驚いてまたベンチに座ってしまった。 「修斗さん? えっ? いたんですか? ……いつから屋上に?」 「ごめんね、君たちが来る前からいたよ」 修斗さんも僕の隣に腰掛け、話し始めた。 「志音君のことさ、実はずっと気になってたんだよね。あいつって笑っててもなんだか嘘っこの笑顔だったじゃん? 心は笑ってない……みたいな感じ?しんどそうだし、空回りしてそうだし、心配しちゃったんだよね、先輩として」 そう言ってイタズラっぽく修斗さんは笑った。 「でも、さっきの志音君見てたらずっと素直に見えたから安心したよ」 僕は黙って修斗さんの話を聞く。 「でもやっぱり志音君、竜太君の事が本気で好きだったんだね。なんか色々あったみたいだけど……もう大丈夫なのか? 竜太君は平気なの?」 僕は頷く。 「ま、俺らも周も竜太君を信用してるからこれ以上は何も言うつもりはないけど、これからは何かあったらちゃんと周に相談するんだぞ? 勿論、周に言えないようなことは俺らが聞くから」 修斗さんは笑って僕の頭をガシガシと撫でた。 「ありがとうございます……あ、修斗さんもサボっちゃダメですよ。ちゃんと教室に戻りましょ」 ぽかんと口を開け、少し間があいてから「竜太君らしいな 」と言って修斗さんは笑った。

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