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文化祭準備が始まる

二学期に入れば本格的に文化祭の準備が始まる。 各クラスで何の出し物をするのか検討、クラスの実行委員が他のクラスとも話し合った後、僕らのクラスは喫茶店をすることに決まった。 ただ喫茶店と言ってもそれだけじゃつまらない。何かいい案がないかと担任も交えクラスで考えている。 僕は何のアイディアも浮かばないから、ただの喫茶店でいいと思っていた。 クラスの出し物も大事だけど、それより僕は美術部で展示する絵が全然仕上がってないから、その事で頭がいっぱいで正直それどころではないと焦っていた。 だから話もあまり聞いていなかったんだ。話し合いにも上の空で参加していなかった。 教室内は先程から賑やかに色々な声が飛び交っている。 「だから! このクラスは比較的イケメン揃いだし、ホストや執事系でいいんじゃね?」 「いや、イケメン揃いっつたってそうじゃない奴の方が圧倒的に多いだろ! そういう奴らも楽しめるようにしないと……あ! コスプレは? コスプレ」 「ならみんなで女装は?」 「他校から女子もたくさん来るだろ? デート気分が味わえるデート喫茶なんてどうだ?」 「おぉー! いいねぇ!」 「でも、俺は志音みたいな綺麗な奴に女装させてデートしたい!」 「いやいや、志音君 綺麗だけどデカいじゃん、女装なんて無理無理!」 今日は急いで部室に行こう……早くこの話し合い終わらないかな? 何をそんなに盛り上がっているんだろう? 「………… 」 ふと視線を感じ周りを見る。クラスのみんなが僕の方を見ていて驚いてしまった。 「……な、何?」 「やっぱり女装は、華奢な奴に限るよな……」 僕の方を見ているみんながウンウンと頷いている。僕は話を聞いていなかったから全然状況が掴めない。でも一瞬聞こえた「女装」という言葉に嫌な予感しかしなかった。 「……僕は嫌だよ」 小さく拒否するも、みんなの声にかき消された。 どんな喫茶店にするか多数決になり、結局「ホスト&女装喫茶」に決定してしまった。 「やっぱり男子校だよな。女装は定番でしょ」 康介が笑いながら僕の肩に手を置いた。 衣装の関係上、女装とホストはそれぞれ二名ずつに決まり、取り敢えず立候補を募る。たったの二名ずつならそんな事やらなくてもいいじゃん……とは誰も言わない。 案の定……と言うか、周りの物凄い推薦でホストの一人は志音に決まった。 そしてもう一枠は数人の立候補の中から多数決で決まった。 「よっしゃ! 俺が可愛く変身した竜をエスコートしてやるからな」 ニヤニヤしながら康介が僕に言う。ホスト役は志音と康介。康介は僕をエスコートすると息巻いてるけど、まだ僕が女装って決まったわけじゃないから。 ホスト役が決まり、今度は女装を決める番。もちろん立候補は上がらなかったから、全員投票で決めることになる。紙に女装させたい人の名前を書き、順番に箱に入れていく。 ……こんなのやっぱり嫌な予感しかしない。 「それでは全員入れたかな? 開票します!」 実行委員が箱から一枚ずつ紙を出し、記入された名前を読み上げていく。 斉藤くん…… 渡瀬くん…… 渡瀬くん…… 斉藤くん…… さっきから僕と斉藤君の名前しか上がらない。半数くらい読み上げたところで実行委員と目が合った。じっと見つめるその目が言わんとしていることは僕にもわかる…… 「……わかりました。僕やります」 不本意だけど、僕と斉藤君が女装役に決まった。 昼休みに屋上で周さんに呼ばれた。 「文化祭、体育館でライブやるから必ず見に来いよ!」 楽しそうな周さん。そうだった。周さんたちのライブもあるんだ。凄い楽しみ。 「その時間は僕も当番入らないようにしますから、大丈夫です。必ず見に行きますね」 「ところで竜太達のクラスは何やんだ?」 周さんに聞かれたけど、あまり言いたくなかった。康介は僕の方を見てニヤニヤしているだけ。僕がなかなか言い出さないから、周さんはもう一度「何やるんだ?」と聞いてくる。 「俺らは喫茶店です。二人ずつコスプレするんですよ……な? 竜太君 」 「ふぅん……」 楽しそうに康介が答えたからか、周さんは途端に興味がなくなったように適当な返事をして、話はそれで終わってしまった。僕は女装することを言いたくなかったので、そのまま話題を逸らし黙っていることにした。 昼休みも終わり、僕と康介は周さんと別れ教室へ戻る。 「なあ、周さんに言っておかなくていいの?」 康介が不思議そうに僕に聞いた。 「別に言わなくても当日わかることだし……僕の女装なんて気持ち悪いだけだから、なるべくなら当日だって周さんには会いたくないよ」 「そっか?……そうかなあ?」 康介は首を傾げ、「竜は可愛いくなると思うぞ」と真面目な顔でそう言った。 いやいや、冗談も大概にしてほしい……

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