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文化祭スタート
文化祭当日────
僕と康介は着替えなどの準備があるので皆んなより早目に登校。教室に入り、順に着替えを済ませているとクラスメイトもばらばらと集まってきて賑やかになってくる。
いよいよだなあと、僕は着替えを済ませた斉藤君と一緒に廊下に出た。
「………… 」
凄い見られてる。皆んなの無言の視線がどういう意味なのか不安になる。
「あ……あの。どう……かな?」
「マジかよ! 超可愛いんだけど!」
僕と斉藤君は思わず皆んなから一歩下がる。急に興奮状態で盛り上がられたらそりゃびっくりするよね……
「俺、渡瀬なら付き合ってもオッケーだ!」
「やべえ! 斉藤、こっち向いて!」
クラスの奴らにベタベタと触られ正直気持ちが悪かった。始まる前からこんなのもう嫌だ……
大騒ぎの中、今度は着替え終わった志音と康介が教室から出てきた。
一瞬沈黙。
え? ちょっと待って、凄い格好いい!
康介も志音もとてもかっこいいはずなのに、何故だか今度はブーイングが起きた。
…とくに康介へのブーイングが酷い。
「なんだよイケメンが! なんかムカつく!」
「志音やべえ! さすがモデル! そりゃ似合いすぎだ!」
「女子の客、いっぱい連れてこいよ!」
周りが一斉に囃し立てる。どうやら先程のブーイングは、康介は普段はおちゃらけたキャラで通ってるのに、こういう格好をしたらイケメンだからムカつく、と言う理由かららしい。でもそんなの可笑しいよね。康介だって普段からカッコいいのに……
僕は康介と志音に近付き声をかけた。
「二人とも凄いかっこいいよ! なんだかドキドキしちゃうね」
僕がそう言うと、志音が僕の肩を抱き徐に頭にキスを落とした。一斉に注目が集まり周りがどよめく。
「ちょっと! 志音?」
「ごめん、竜太君があんまりにも可愛いからつい……」
悪戯っぽくにっこり笑う志音に周りがヒューヒューと囃し立てた。康介は「天然タラシが!」と志音の肩をど突く。全くもう……びっくりした。
周りからからかわれながら開店準備を進め、いよいよ文化祭がスタートした────
僕と斉藤君は喫茶店の中で待機する。
僕の似顔絵は先着十名。整理券を配り、一人十分程度で仕上げる予定だ。客がいない時は店内を手伝う。そういう約束で僕は奥の席に一人着席をして客を待った。
他のクラスの奴らもチラチラ僕を見にくる。
……やっぱり恥ずかしい。
ふと斉藤君を見ると、彼は意外にもノリノリで動いていた。スカートをめくられて「やだぁ やめてよエッチ」なんて笑顔で返してる。僕には到底真似できない。斉藤君、凄いや……
少しすると他校の生徒も来始めた。僕の似顔絵コーナーも数人整理券を配ったらしく、準備を促される。
いよいよかと思うとやっぱり緊張するな。
喫茶の方は既に満席状態で賑わっていた。クラスの皆んなも忙しそうに動き回っている。 周りを見てそわそわしていると誰がが目の前に座ったのに気がつき慌てて顔を向けると、そこには満面の笑みの圭さんが座っていた。
「ちょっと! 竜太君、すっごく可愛いね。惚れちゃいそうで怖いよ」
圭さんの後ろでは複雑な顔をした陽介さんが立っている。え? なんで圭さん?
「どうしたの? 俺が竜太君の最初のお客だよ。早くお願い 」
圭さんに言われて思い出した。僕はここで似顔絵を描かなきゃいけないんだっけ。緊張しすぎてボケっとしちゃった。
「あ、すみません。緊張しちゃって……今から描きますね。ふふ、最初が圭さんでよかったです」
僕は手短に、圭さんの特徴を掴んだ似顔絵を描き上げた。思いの外上手く描けてホッとする。そして圭さんも凄く喜んでくれたから、それが自信に繋がった。
「ありがとうございました!」
圭さんと陽介さんはにこにこと手を振り、「後でライブでね」と言って教室から出て行った。
その後も続けて僕は似顔絵を済ませて、一先ず仕事はおしまい。休憩入っていいよと言われ、僕は席を立った。
「どこか行きたいとこある? エスコートするよ」
僕が一人でウロウロするのは心配だからと志音が声をかけてくれた。廊下を並んで歩きながら、いちいち志音はキザっぽく僕に話しかけてくる。「お嬢様」とか「可愛すぎて食べちゃいたい」とか、冗談なんだけど周りの人はその度に振り返ってクスクスするからちょっと恥ずかしかった。
「志音がかっこよすぎて注目浴びる……僕嫌だ。ちょっと離れて歩いてくれない?」
「え? 注目浴びてるのは俺のせいじゃないと思うけど」
志音がかっこよすぎて目立つから、ほんと黙ってて欲しかった。僕は恥ずかしくて恥ずかしくてあまり顔を上げられず、俯きながら歩いた。
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