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全く自覚なし

乱れた服を直し息を整え、僕は周さんに手を引かれて教室を出た。 そこには修斗さんが一人だけ。一緒にお化け屋敷に入って途中ではぐれてしまった志音はいなかった。てっきり廊下で待ててくれているのかと思ってたんだけど、まだ中にいるのかな? 「修斗さん、志音はまだですか? 僕途中ではぐれちゃって……」 僕がそう聞くと修斗さんは笑った。 「もうとっくに出てきて 一緒にいた保健医とどっか行ったよ。 誰かさんがイチャイチャし始めたから遠慮したんじゃないの?」 ニヤニヤとそう言われて、すっかりお見通しなのが恥ずかしくなり、周さんの方を振り返る。 「志音のおかげで久々に竜太をたっぷり堪能できた」 僕の気持ちなんて御構い無しに、満足そうな周さんは更に恥ずかしいことを言って修斗さんを笑わせた。 「さて、昼飯済ませたらライブ準備行くぞ」 「あ、さっき圭さんが僕のクラスに来てくれたんですよ。陽介さんと一緒に校内回ってるのかな?」 一番乗りで圭さんと陽介さんが来てくれたことが嬉しくて僕は二人にそう話すと、周さんはキョトンと僕を見た。 「そういや竜太のクラスは何やってんだ?」 「………… 」 ……こないだ康介ともその話たんだけどね。やっぱり聞いてなかったんだ。僕は知られたくなかったからいいんだけど。 「喫茶店ですよ。僕ともう一人が女装で、康介と志音がホストの格好。僕はお客さんの似顔絵描くんです。昨日も見たでしょ? 斉藤君の姿も」 そう説明すると、「そうだった! 俺のも似顔絵描け!」と言い出して我儘を言い、これからライブだし今日の分は終わってしまったから明日にでも……と、なんとか宥めて納得をしてもらった。 「でも、先着順だから早く来てくださいね」 「そんなんしないで俺を優先にしろよ」 「ダメですって。ちゃんと公平! 早く来てくださいね。僕、待ってますから」 膨れっ面をしながらも、早起き頑張ろう……と呟く周さんが子供っぽく思えてちょっと可笑しかった。 「ところでさ、竜太君は今日一日その格好なの?」 突然修斗さんに言われ、ハッとする。あまりにもぴったりで着心地がいいから女装してたことをすっかり失念していた。慣れって怖い……あんなに恥ずかしくてイヤだったのに。 「あ、はい。一応 今日と明日はこの格好って言われてるんで…… 女装してるの正直忘れてました」 周さんも修斗さんも、僕の言葉を聞いて爆笑する。 「確かに全く違和感ねえもんな。でも、危ないからほんと気をつけてくれよ……俺がずっと付いてやれればいいんだけど。康介とか志音とか横に侍らせとけよ?」 周さんが心配してくれるのは凄く嬉しいけど、でもやっぱり僕は男だし、そんなに心配することじゃないよね。 「僕男だし……そこまで心配しなくても大丈夫ですよ」 僕がそう言って笑うと、周さんと修斗さんはお互い見合って盛大に溜息を吐いた。 周さんと修斗さんと一緒にカレーの店で昼食を済ませる。食べ終わり、体育館に移動途中で甘い匂いが僕の鼻を擽った。クレープの店発見! 「あ! 周さん、僕クレープ食べたいです!」 まだ時間あるからいいよ、と言ってもらえたので早速僕は並んで買ってきた。クレープを頬張りながら歩いていると何人かに呼び止められ、写真を一緒に……とお願いされる。僕は周さんと修斗さんと撮りたいのかと思って横にずれると慌てて戻され、どうやら僕と写真が撮りたかったらしく嬉しそうに肩を組まれて写真を撮られた。 「一年の渡瀬君だよね? 噂通り可愛いね 」 写真を撮った後にそう言われ、不思議に思った。……なんで僕の名前知ってるんだろう。ありがとうと手を振るその人に、周さんが怖い声で「その写真、悪用すんじゃねえぞ」と怒鳴りつける。その人は首を竦めていそいそと去って行った。 「竜太、ほんと気をつけてくれよ……俺やっぱり心配だわ」 「とくに今日のこの格好ね、そのクレープも危険度大幅UPだよね」 修斗さんはそう言って笑うけど、僕にはちっとも意味がわからなかった。なんでそんなに僕が危険? クレープ持ってちゃまずいのかな?とりあえずさっさと食べちゃおう…… 僕は急いでクレープを食べ終え、キュッと口を結んで気を引き締めた。

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