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ライブ

体育館に到着すると、周さんと修斗さんは控え室になっている裏の準備室へ向かった。 体育館にはもう沢山の人が集まっている。 凄い人── とりあえず康介と合流するまで僕を一人にしておけないと言われ、僕も控え室に連れて行ってもらえた。中には既に圭さんと靖史さんも来ていてすっかり服も着替えている。 やっぱり格好いいなあと見惚れてしまった。 「靖史さん? どうしたんですか?」 僕が控え室に入ってからやけに靖史さんがじっと見てくるのが気になって、思わず声をかける。靖史さんは僕の声に驚いたようにビクッとして「竜太君かよ!」と目を丸くした。 「ヤバイよね、竜太君。靖史さんもびびったでしょ」 修斗さんがまた僕のことをヤバイと言う。なんでみんなしてそういう風に言うんだろう。僕は危険でもヤバくもないのに全く失礼だな。 しばらくして康介が合流して、僕は周さん達に頑張ってくださいと伝えて体育館の方へ向かった。 体育館は満員御礼。ステージに近い所はもう人がひしめき合っていてとてもじゃないけど近寄れなかった。圭さん達の学校からもたくさん来てるんだろうな。待ってるお客もみんな楽しそう。 康介が僕の格好を気にしてくれて、比較的人が少ない後ろの方へ向かった。 「ここからでもちゃんと見えるもんな」 そう言って、康介と二人後ろの方で演奏が始まるのを待った。 今日のステージも明日のステージも六曲ずつ演奏すると聞いていた。 バンド結成当初はノリのいい曲のコピーを演奏してたみたいだけど、今では全てオリジナルの曲。主に圭さんと靖史さんが作詞作曲をしているんだって。そしてこの文化祭で新曲を二曲やると言っていた。二曲のうちの一曲は周さんが作詞作曲をしたらしい。曲を作ったり歌詞を考えたり、僕には到底出来っこないし、ましてや演奏をして大勢の人の前で歌うなんて絶対に無理。そしてお客さんを魅了して笑顔にさせる……ほんとに皆んなカッコいい。 康介と並んでD-ASCHの話をしていると、お尻に違和感を感じた。触ってるんだか触っていないんだか、微妙なタッチで……でもやっぱり触ってる? 気のせいかな? と思っていた矢先にスカートの下から誰かの指が僕のお尻の割れ目をなぞった。指先で突いてきたりゆっくり撫でてみたり…… やだ! 気持ち悪い! 慌てて振り向いても、僕の後ろには沢山の人がいて、誰も僕を見ていない。真後ろの人には「何?」っていう顔で見られるし、他の人もそれぞれ話をしていたりで僕の方なんか気にしていない。場所的に真後ろの人だと思うんだけど、もう僕と目を合わせないから何とも言えない。 僕は怖くなって康介の手をぎゅっと握った。 「え? どうした?」 「……誰かが僕のお尻、触ってくる」 小声で康介にそう伝えると、康介は怖い顔で後ろを振り返り、一通り睨みつけてくれた。でもまた人が入れ替わってるから犯人は誰なのかわからない。 そもそも犯人が一人とも限らない。 すると康介は僕の真後ろに立ち、体をくっつけて立ってくれた。 「これなら大丈夫だよな?」 竜太の尻は誰にも触らせねえぞ! と後ろから鼻息荒く僕を抱く康介に、ありがとうとお礼を言って、僕らは周さんたちの登場を待った。 周りがざわつき始め、照明が落ちる。ステージの上にライトがあたり、周さん達が登場した。 一斉に大歓声が上がる。圭さんの大きなジャンプを合図に、ノリのいい一曲目が始まった。 凄い一体感。所狭しと圭さんがステージの上で走り回りながら歌ってる。圭さんは小柄なはずなのにステージの上だとなんであんなに大きく感じるんだろう。そして周さんはやっぱり格好いい。ギターを弾きながら、圭さんのボーカルに合わせ一緒に歌う。 僕の大好きな声…… ステージを見ているとたまに周さんと目が合うんだ。ちゃんと僕の場所をわかってくれてるんだと思うと気分がますます高まってくる。そしてあっという間に五曲が終わり、一旦演奏が止まった。 「これで最後の曲です! ギター周の作った新曲、みんな楽しんでね!」 圭さんがそう叫ぶと、なぜか周さんからギターを受け取った。圭さんが周さんのギターを構え、周さんはマイクスタンドに手を置いて、僕の方をジッと見た。 圭さんのギターの合図で最後の演奏が始まった。それは今まで僕が聞いてきたD-ASCHの曲調とまた少し違ったポップな雰囲気の曲。そしてニコッと周さんは笑い歌い出した。 え? 周さんが歌うの? 僕も康介も、もちろんファンのみんなもびっくりしている。周さんが歌い出したのはラブソングだった。 男の子が女の子にこれでもかってくらい好きだと伝えてる。そういう内容の甘い甘いラブソング…… 周さんがこんな曲を作ったなんて! 物凄いギャップ! 驚きと同時に僕は一気に顔が火照って熱くなる。だってこの曲、歌詞の内容が男女の設定だけど……これって周さんと僕の事だよね? 嬉しさと恥ずかしさで、顔が爆発しそうだ。周さん、歌いながらずっと僕の顔を見てるんだもん。こんなの、嬉しくて泣きそうになっちゃうよ…… 最後の曲が終わり、会場は静かになる。そして大歓声! とくに女の子の黄色い声援が凄まじかった。沸き起こる周コールにちょっと嫉妬すら覚える。でもかっこよかった。僕の大好きな周さん。 そしてステージの照明が消え、皆んなはステージを後にした。

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