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文化祭二日目
文化祭二日目──
僕らはまた衣装に着替え喫茶店の準備をする。昨日の今日ですっかり慣れ、色々とスムーズに準備も進んだ。 開店と同時にお客も沢山入って来る。僕の似顔絵コーナーもすぐに整理券十枚が配布終了になったと聞かされた。
昨日は周さん、早起きして僕の所に来ると言っていたけど間に合ったかな? 周さんの事を気にしながら、僕は黙々と似顔絵を仕上げていた。
「ねえ君、可愛いね。彼氏いるの? 連絡先交換しようよ」
「ごめんなさい。僕男なんです……」
完璧に僕を女の子と勘違いしてナンパしてくる人もいた。男だと断ると大抵の人は驚いて諦めたけど、中には僕が男だとわかった上で声をかける人もいて、僕が逆に驚かされた。
「お待たせしました── 」
最後のお客さんを見ると、そこに立っていたのは雅さん。
「竜ちゃん!」
驚いた! 雅さんの後ろで不機嫌そうな周さんも立っている。
「周がさ、竜ちゃんが凄い可愛い事になってるって言ってたから見に来ちゃった! ほんと凄い可愛い! 似顔絵の整理券もギリギリ間に合ったわ!」
「雅さん、ありがとうございます。今日はお仕事お休みなんですね」
僕は後ろの周さんをチラッと見る。
「おふくろ、俺のこと起こさないで自分だけ支度してさっさと行っちゃうんだもんよ。俺が整理券貰おうと思ってたのに、こいつに先を越された!」
周さんは雅さんと競ってまで僕の整理券貰おうとしてくれたんだとわかり、嬉しかった。不貞腐れてる周さんも可愛い。
「いいですよ。特別! 雅さんと周さん、僕一緒に似顔絵描きますから」
こんな機会じゃないと親子で似顔絵を描いてもらうなんて滅多にあるもんじゃない。雅さんだってその方が嬉しいよね。僕がそう言うと、周さんは照れ臭そうにしながら雅さんの隣に座ってくれた。
完成した絵を雅さんに手渡し、せっかくだからお茶でも飲んでいってくださいと、空いてる席に案内する。すぐさまホスト役の康介が注文を取りに来てくれ、雅さんはご機嫌でコーヒーを注文した。周さんはもう付き合っってらんねえと言い、自分のクラスへ戻って行った。
「ほんと、竜ちゃん可愛いわ。そこいらの女より全然勝ってるわよ」
僕にもここに座れと言いながら、しきりに僕の女装を褒めてくれた。ふと雅さんが誰かを目で追ったのに気がついた。
「ちょっと! そこの君! 」
呼び止められたのは志音だった。呼ばれた志音は雅さんを見てギョッとした顔をして、一緒に座ってる僕を見る。そうか、あの時の写真の人だもんね。何も知らない志音はびっくりするよね。
雅さんはにこにこと志音に手招きをしてる。志音が席まで来ると、パッと志音の手を捕まえた。
「あなた! どこの店の子? 今度指名するわ!」
……いやいや、雅さん。ここにいるのはみんな高校生だって忘れちゃったのかな? 志音を見て勘違いしちゃう気持ちも分からなくもないけどね。ちょっと可笑しい。
「お姉様、すみません。僕はここの生徒なんです」
申し訳なさそうに雅さんの手をとり志音はごめんなさいと謝った。
それにしても一々行動がカッコいい。惚れ惚れしちゃう。
「あ! そうよね! やだ私ったら。あなた凄いかっこいいし大人っぽいから本当のホストかと思っちゃったわ」
豪快に笑う雅さんに志音はたじたじ。そしてやっぱり気になるのか、雅さんの顔をまじまじと見ていた。
「志音、この人は雅さん。周さんのお母さんだよ」
僕が言ったことに志音は固まった。……だろうね。志音が何を思ってるか僕には手に取るようにわかる。僕だってびっくりしたんだ。
「雅さん、お会いできて光栄です。僕は志音と言います。どうぞ志音ってお呼び下さい」
志音はホストっぽく笑顔で雅さんに挨拶をした。
「今日はすっごい楽しかったわ! 」
雅さんは午後から仕事らしく、仕事の前に大満足だと言いながらにこやかに帰って行った。
「橘先輩のお母さん、色んな意味で凄い人だね……」
見送りをした志音は真顔で呟く。
「あれはどう見てもお母さんには見えないよ」
志音の言葉に僕もうんうんと頷いた。
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