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白衣の王子様

昨日は似顔絵を終えた後はずっと休憩をさせてもらえたけど、今日は思いの外忙しくなったので僕も喫茶店の接客を手伝わされた。すっかり女装も慣れてしまったので、あまり気にせず接客をしていた。慣れたとは言ってもまだまだ斉藤君みたいに冗談を上手く交わすことは出来ないけどね。 忙しく動き回っていると陽介さんと圭さんが遊びに来てくれた。この二人、いつも見てて思うんだけど本当に仲がいい。かと言ってベタベタしているわけでもなく、仲の良さ、お互いが思い合っている雰囲気が伝わってきて、僕は見ていてとても羨ましかった。 圭さんの所に入れ替わり立ち替わりファンと思われる人が話しかけてる。嫌な顔もせず、圭さんは握手をしたり写真を撮ったり忙しそう。陽介さんはそんな圭さんを笑顔で見つめてる。 「圭さん、凄い人気ですよね」 「でしょ? 圭ちゃん、かっこいいもん」 陽介さんはニコニコしている。僕だったらきっとそわそわしちゃうと思う。現に周さんが女の子に囲まれてキャーキャー言われているのを見て不安になった。ヤキモチだってしょっ中だ。 陽介さんはヤキモチとか無いのかな? 「今日のライブは曲増やすから、昨日よりもっと楽しんでね」 ファンから解放された圭さんが僕に言う。 「今日はここ手伝わなきゃいけないから、途中からになっちゃうけど絶対ライブ行きますね。あ、圭さん、ライブ終わってから見てもらいたいものがあるんです……」 僕は圭さんに美術部の展示品の話をした。圭さんと靖史さんにも見てもらいたかったから。文化祭はD-ASCHのライブが終わってからは体育館で行われる後夜祭の準備に取り掛かり、校舎内も後片付けが始まる。美術部の展示もそれと同時に片付けを始めてしまうので、間に合えば見に来てくださいと伝えた。 「了解! 楽しみだな。竜太君達は後夜祭出るんだろ? 俺らは竜太君の絵を見たら先に打ち上げの準備してるから。終わったら俺んちおいでね」 そう、今日はD-ASCHのみんなと圭さんの家で打ち上げをする。後夜祭でやるビンゴ大会も、今年は景品が豪華らしくてそれも楽しみ。 「じゃ、また後で会おうね」 そう言って圭さんと陽介さんは教室から出て行った。 二人が出て行った後、斉藤君が僕の所へ来る。 「お疲れ様。今から一時間くらい休憩入っていいよ。お昼行って来なよ」 僕は斉藤君と入れ違いで休憩をもらうことにした。見ていた康介が僕の所に来て何やら慌てている。 「俺、一緒に休憩入れないけど……竜どうする? 一人でうろつかれるの心配なんだけど……」 そんな不安そうに僕を見ないでほしい。もう慣れたしどうってことないと思うんだけど。 「大丈夫だよ、周さんの所に行ってみるから。二年生の教室ここから近いし。もう康介心配し過ぎだよ。行って来るね」 心配する康介をよそに、笑って僕は周さんの所へ向かった。 道中色んな人に声をかけられ、結局なかなか前に進めない。似合ってもない女の子の格好をしてるってだけで、なんでこんなに注目を浴びてしまうのだろう。可愛い子なら他にいると思うのに…… 握手くらいならいいんだけど、写真を撮られるのは正直嫌だった。 一度勇気を出して断ってみるも、お高くとまってんじゃねえよと睨まれてしまったので、もう怖くて断れない。連絡先を交換しようよとか、僕を男とわかった上でナンパして来る人もいて、もう半分パニック状態…… 頭がぐるぐるしてしまい返事が出来なく固まっていると、誰かが僕の名前を呼んでくれた。 「おーい、渡瀬くん。大丈夫?」 顔を上げて見てみると、白衣を着た高坂先生だった。 知った顔を見てホッとする。僕は「先生……」と縋るような気持ちで先生の方に歩いて行った。 先生は僕の顔を見るなり険しい顔になる。 「なんて顔してんだよ。なんで一人で歩いてんの? 危ないからダメだよって昨日言っただろ?」 「あ……えっと、二年生の教室まで近いから……」 まさか怒られるとは思ってなかったからそう答えるだけで精一杯。そんな僕を見て「しょうがねえな」と言って先生は一緒について来てくれた。しっかり僕の手を繋いでくれてるから安心して歩く。 「橘のクラスだろ? そんな泣きそうな顔しないの」 「すみません。ありがとうございます」 ふと先生を見て疑問に思った。 「高坂先生? なんで白衣着てうろうろしてるんですか?」 「ん? 白衣着てるといっぱい声かけられるでしょ? 楽しいじゃん 」 思った通りの返事が来て、先生らしいや、と可笑しくなった。

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