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狂気

今日も大歓声の中ライブが終わり、少しずつ体育館から客がいなくなっていく。 バラバラと実行委員が集まり、片付けと準備が始まった。 僕と康介は控え室に行き、圭さん達の支度を待つ。 美術部の展示の片付けは、僕の作品はまだ片付けないでそのままにしてもらうよう部長にお願いしておいた。 「じゃ、俺はとりあえずクラスの片付けやってくるから……竜も終わり次第すぐ来いよ」 そう言って康介はクラスの片付けをしに教室へ戻って行った。僕は控え室から出てきた圭さんと靖史さんを連れ、展示室へ向かう。ちょっと急かしちゃったみたいで申し訳なかったな。 展示室では部長が一人で待っていてくれた。 「あ、お待たせしちゃってすみません! 友達に僕の絵をどうしても見てもらいたくって……」 「うん、わかってる、気にすんな。あ、ライブお疲れ様でした。凄いかっこよかったです。ゆっくり見ていって下さいね」 部長は圭さん達にそう言って笑った。 「そうだ、渡瀬君。後片付け済んだら戸締りして鍵は職員室ね。鍵はそこの棚にあるから忘れないで……あとは任せるから」 ごゆっくり、と部長が出て行く。圭さんも靖史さんもぺこりと頭を下げながら、僕の絵をじっと見ていた。 「………… 」 「これ、俺らだね……ん? これは?」 圭さんが右端に描かれている人物を指差した。 「これは志音です……志音も僕の大事な友達だから」 僕が言うと、圭さんは優しい笑顔で そうか。と言った。圭さんと靖史さんは、僕の絵を見て凄い喜んでくれた。不思議で綺麗で、暖かい気持ちになれる、そんな絵だと褒めてくれた。 描いてよかった。凄い嬉しい。 そういえば志音はこの絵を見てくれただろうか。志音だってわかってくれたかな? もしまだ見てなかったら今度はうちに呼んで見てもらうことにしよう。 圭さんと靖史さんは打ち上げの準備をして待ってるから後夜祭が終わったらすぐに来いよと言って帰っていった。 僕は一人、教室に残りしばらく絵を眺める。荷物になるから持ち帰るのは来週にして、それまでこの絵は部室に置かせてもらおう……そんなことを考えながら絵を眺めていると、入り口に誰かの気配を感じた。見るとそこには井上先輩が立っている。僕がいつまでも残っているから片付けに来たのかな? 「あ……井上先輩。遅くなってすみません。今から急いで片付けますから。あとは僕のだけだし戸締りもしておきますので先に行ってて下さい」 慌てて僕はそう言ったけど、井上先輩は遠くを見つめて何も言わない。 「……井上先輩?」 なんだろう? 顔色も悪いように見えるけど……様子のおかしい先輩が心配になり、僕は少し近づこうと前に出た。 「先輩? どうしたんですか?大丈夫で………… 」 井上先輩の手元を見て僕は固まる。先輩の手には部活で鉛筆を削る時によく使うナイフが握られていた。 え? 何でナイフ? 「先輩?」 井上先輩はナイフの先端を僕に向け、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。 「……んでだよ…… な…でだ?」 何かぶつぶつ言ってるようだけど、よく聞こえない。それよりも、明らかに僕に向けられた狂気にどうしたらいいのかわからずに、僕は恐怖でその場から動くことができなかった。

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