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圭さんの家に合流
高坂先生の車の後部座席に周さんと座り、圭さんのマンションへ向かう。
周さんの右手の包帯が痛々しい。僕は周さんの手の上にそっと自分の手を重ねた。
「周さん、ごめんなさい……僕のせいでこんな大怪我 」
「お前はいつまで俺に謝ってんだ? 俺がそうしたかったからしただけだ。竜太も絵も無事だったんだからそれでいいだろ? 嘆いてねえで喜べ」
周さんはぐっと僕の顔の前まで顔を向け、そう言ってちょっと怖い顔で僕を見た。
また鼻の奥がツンとする。泣いてばかりで情けないしみっともない。もう泣いちゃダメだ……
「えっ?」
泣くのを我慢していたら周さんが僕の頬にキスをした。
「もう、竜太 泣きすぎ! 泣き顔も可愛いけど、やっぱり俺は笑った顔の方ががいい」
優しい笑顔で僕を見つめる。周さんの優しさが嬉しくて、僕は周さんの肩に頭を預け涙を堪えた。
「……あのさぁ、いちゃつくのやめてよね。なんかムカつく」
ミラー越しに高坂先生がこちらを見ながら溜息を吐く。
すっかり先生の存在を忘れてた。恥ずかしい……
それにしても、井上先輩は何であんな事を言っていたんだろう。井上先輩は周さんの事が好きだったんだよね? きっと仲も良かったんだ。じゃないとあんな風には言わないはず……
じゃあ周さんは? 井上先輩の気持ちには気づいてなかったみたいだけど。
考えるとなんだか少しモヤモヤする。あんな事をしちゃうくらい人を好きになるって、どんな心情なんだろう。でも、だからって人や物を傷つけようと思うのは間違ってると思う。そんな事もわからなくなってしまうほど、先輩は周さんの事が好きだったんだ……
あの時の井上先輩の気持ちを考えたら胸がギュッと苦しくなった。
辛い……
僕の頭にコツンと頭をぶつけながら周さんが僕に言う。
「竜太? 井上のこと考えてんだろ? 俺は竜太だけだよ、井上とは何もない。あいつが一方的に俺を想ってたみたいだけど……俺がそれに気づかなかったせいで、お前に怖い思いをさせちまった。……本当にごめんな」
周さん、僕が考えてた事がわかったのかな。
「周さん、ありがとう。僕は大丈夫です。僕も周さんだけですよ」
自然な流れで僕の方から周さんにキスをしようとしたら、前の方から大きな咳払いが聞こえてきたので慌てて少し離れた。
周さんの道案内ですぐに圭さんのマンションに到着した。志音もここに住んでるんですよ、と先生にも教えてあげたら、ふうん……と興味なさそうに返事をして、何故だか慌てた様子で帰っていった。
圭さんの家につくなり、既に打ち上げを始めていたみんなが心配して集まって来てくれた。周さんがこれまでの経緯を説明すると、陽介さんが笑ってとうとう刃物沙汰かよ、モテ男は辛いな と、周さんの肩を叩いた。
「でもさ、竜太君すごかったんだよ。井上の胸ぐらつかんで怒鳴ってんの。その後思いっきりビンタで張り倒して 馬鹿じゃねーの? って! このぽやんとしてる竜太君がだよ? 凄い剣幕で俺びっくりしちゃった」
修斗さんが笑いながら僕を見るけど、僕、そんなことしたかな? 夢中だったから覚えていない。もの凄く腹が立ったのは覚えてるけど……
「マジで? 竜のそんな姿、俺今まで見たことない……」
康介もそれを聞いて驚いてる。
うん、僕も驚いてる……
「竜太君も頭に血が登るとあんな男らしくなるんだね」
修斗さんがレアなものを見たと言って笑ってる。
「俺ね、あの時竜太の愛めっちゃ感じた」
周さんが嬉しそうに後ろから僕に抱きついてきた。……もうやだ、恥ずかしい。
「でもさ、井上って奴は何でそんな事したん?」
靖史さんが疑問を口にする。
「わかんね。井上って一年の時からやたら親切で、いつも俺が学校来ると焼きそばパンとか買って来てくれるから、いい奴だなあって思ってたのに」
「パシリ?」
「下僕?」
「ああ確かに周が学校来るとあいつ渾身的に世話してたな……え? それで周が喜んでるから相思相愛だと思ってたのか?」
修斗さんが呟くと、んーーわかんね!って周さんがソファに腰をかけた。
……それだけ? それだけのことで? 僕はそれを聞いて本当に怖いって思った。
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