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康介の落ち着けない休日 その2

「何食べます? 俺も腹減った」 ひとり家に帰って兄貴のカップ麺食うつもりだったのが、まさかの修斗さんとふたりでご飯に行くことになり、俺的には凄く嬉しくてテンション上がる。 「ん……あそこがいい」 修斗さんが指さした店はよくある珈琲店。軽食があるとは言え、昼時だしがっつり食うぞ!と思っていた俺としては「え?」って感じだった。でも「康介君と一緒に美味しいコーヒーが飲みたい気分」なんて言われてしまえばハイとしか言いようがない…… メニューをじっくり見て、俺は腹にたまりそうなカレーとカツサンドを頼んだ。それでも気分的には物足りない。修斗さんはメニューもろくに見ないで女子が好きそうなフワフワした名前のドリアを頼んでいた。それだけでいいのかな?少食だな。 「もうね、康介君がいてよかったよ! 俺、退屈で死んじゃうとこだった」 注文が済むと、修斗さんはテーブルに伏せながら大袈裟にそう言った。寂しんぼだからひとりでいるのが嫌なんだと笑う。修斗さんは話も面白いし、こうやって誰にでも愛想よく、懐いてくる感じが好感が持てる。気さくに接してくれるから先輩だけどとても楽なんだ。きっとバンドのメンバーの中で俺はこの人が一番好き。 「ねぇ、修斗さんは あの……その……男とデートって、そういう事なんすか?」 ちょっと聞きづらいけど、どうしても気になってしょうがないから思い切って聞いてみる。だって女の子じゃなくて男とデートって……ただ単に遊ぶのとは違うのかな? 男相手でもドキドキしたりすんのかな? 「あ? そういうことってどういうこと? 今日はたまたま相手が男だったけど、俺別に男でも女でも誘われればデートするよ」 屈託なく笑う修斗さんに、「誰とでもデートするんかいっ!」と心の中で突っ込みを入れる。 「今日だって康介君とデートでしょ?」 小首を傾げ、キョトンと俺を見てそう言うけど、いや? これは違うだろ……と俺は首を振った。 「いやいやいや! 違うでしょ。俺と修斗さんのこれはデートって言わない……」 「え? ふたりで楽しく遊んでるんだからデートだろ?」 「……… 」 そういうことね……なんか俺、ちょっといかがわしい事考えちゃった。修斗さんごめんなさい。 しばらくするとテーブルに料理が運ばれてきた。 「いただきまーす!」 腹が減っていた俺は、片手にカツサンドを持ちながらいつものようにがっついてカレーを食べる。 ふと視線を感じ前を見ると、修斗さんがジッと俺の事を見つめていた。 「……あ! すみません! 俺、行儀悪いっすよね」 いくら修斗さん相手とは言え気を抜きすぎだろ俺。普通に家にいる時とおんなじ調子でがっついてしまって恥ずかしくなった。そっと俺はカツサンドを皿に戻す。 「んーん、平気。気にしなくていいよそんなの。俺さ、ガツガツ美味そうに食べる奴、超 好き。男でも女でもそういうのって見ていて気持ちがいいよね!」 慌てる俺を見て、ふふっと修斗さんが笑った。テーブルに肘をついてその手に顎を乗せた修斗さんに見つめられて、何だか落ち着かない。修斗さんだって料理が運ばれてきてるんだから、俺ばっか見てないで食べりゃいいのに…… 「修斗さんは食べないんですか?」 修斗さんはふっと自分の料理に視線を落とすと小さく首を振る。 「俺、猫舌なんだよね。熱くてまだ食べられない。康介君 ふーふーして…… 」 上目遣いで俺を見る。 この人ってば、天然か? 小悪魔か? 不覚にも「可愛い!」なんて思っちまった。イケメン怖え…… 「何言ってんですか! 自分でふーふーしてください」 なんだよ俺……いちいち修斗さんの言うことや仕草にドキドキしてんの、勘弁してくれ。 でもさ、この人が男女問わずモテるのってわかる気がする。こういうお茶目なところとかチャラチャラしてるところ、アホっぽいところとか、でも凄え男らしいところもあったり、見ていて凄く魅力的だって思うもん。俺にはない……羨ましいなって思う。見た目も勿論だけど、やっぱカッコいい。 食事を終えた俺は、コーヒーを飲みながらそんな事を考えていた。 「修斗さんは色んな人とデートしたりするけど……その、好きな人とかいないんですか?」 圧倒的にモテるんだから、すぐに恋人なんて出来るだろうに、なんでこの人はフリーなんだろう。 「好きな人? わからない。みんな好きだし。俺、こいつじゃなきゃダメだ! って思えるような人にまだ出会えてないから……」 そう言った修斗さんは少し寂しそうに見えた。 「なかなかビビッとくる奴には巡り会えないのな。だからさ、周なんか見てると羨ましいよ。あんなすぐに好きだ!ってなって付き合うようになってさ……竜太君、最近すごい変わったって思うけど、 周もだよね。お互いが影響し合っていい方向に行けるのって凄いなって思う」 確かに……竜はいつの間にか色んな人と普通に話せるようになってる。長年一緒にいた俺には変えてあげられなかった竜の変化。 「……俺もそんな恋愛がしたいな」 小さく修斗さんが呟いた。 「でもさ、康介君だってモテるだろ?」 突然話題を自分に振られ少し焦る。俺だって今はフリーだけど、彼女がいた時だってあったんだ。まあ、ちょっとの間だけど…… 「あ、はい。多少は……」 思わずそう言うと、修斗さんに笑われた。 「多少は……って、自分で言っちゃう?」 自分で言っときながら恥ずかしくて変な汗出る。でも過去の彼女だって本当に俺は好きだったのか疑問だ。周りに流されて、彼女欲しいーって雰囲気に飲まれてなんとなく格好だけって感じだったのかもしれない。 「俺もなかなかビビッとくる人に出会えないんで……」 そう……俺だってそこそこモテてたと思うんだ。でも長続きはしたことない。高校に入ってからだって告白されたよ。男子校だから言わずもがな相手は男だったけど。俺はその時はビビって「男だし!」と速攻拒否してしまった。男だろうと女だろうと、好きになるのは自由だ。竜にだってそう偉そうに言った気がする。 人に言っときながら、自分は何なんだ……告白してきた相手は真剣だったはずなのに。 ああ、ちゃんと見てやらなくて悪い事したな。 「……康介君? どうした?」 「修斗さん、恋愛って難しいっすね」 つい考え込んでしまい、修斗さんに心配されてしまった。 「さあて、これからどうする?」 修斗さんがにこにこして俺に聞く。 「いや、ぼちぼち帰ります。さっき買ったマンガ読みたいし」 プゥと頬を膨らませてこっちを見る修斗さん。もう、どんなキャラなんだよ…… この人は。 「もう帰っちゃうの? つまんないじゃん。あ! そうだ…… 」 ……嫌な予感。 「俺も康介君ち行くわ!」 ……やっぱりそうきたか。

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