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康介の落ち着けない休日 その3

「お邪魔します!」 なんだかんだ言って家まで来てしまった修斗さん。まあこの人にかかれば俺に拒否権なんてないのはわかってる。とりあえず部屋はそんなに散らかってはいないはず……だよな? 大丈夫かな。 「あ、そうか! 康介君ちってことはさ、陽介さんのうちでもあるんだね」 きょろきょろしながら修斗さんが当たり前のことを感心しながら喋ってる。ちょっと可笑しい。 でも兄貴は昨夜から帰ってこないし、親も今は出掛けてて留守。 「お茶でも用意しますので、修斗さんは俺の部屋に行って待ってて下さい」 二階に上がってすぐの左側の部屋だと教えると、トコトコと修斗さんはひとり二階へと上がって行った。 ……なんだろうな、ちょっと緊張する。 俺は冷蔵庫にあったコーラをグラスに二つ用意して、お盆にのせて自分の部屋に向かった。 部屋のドアをあけると、修斗さんが何やらベッドに向かってゴソゴソとやっていた。 「修斗さん、ジュース…… って、何やってんすか?」 俺のベッドに向かってマットレスの所をゴソゴソと…… !!! 「ちょっと? ちょいちょい! 何やってんすか! 待って! そこダメ! やめてください!」 俺は慌てて後ろから修斗さんに飛びかかったけど手遅れだった。 「エロ本見っけた! あはは、康介君も健全な男の子だね」 やめてくれよ、恥ずかしい。 「もー! 母ちゃんみたいな事しないで下さい!」 俺の反応にゲラゲラ笑う修斗さん。飛びかかったせいで、距離が近い……あ、修斗さんなんかいい匂いする…… 「ん? 俺いい匂いする?」 至近距離ではにかんで笑い、俺を見る修斗さんにドギマギしながら俺は慌てて離れた。 ……やべ! 思わず匂いスンスンしてたのわかっちゃった? 変態かよ、最悪だ…… 「よく言われるんだよね、いい匂いするって」 「……すみません」 スンスンしていた事が恥ずかしく思わず謝ると、修斗さんは笑顔のまま軽く首を傾げた。 「康介君はね、……男臭い!」 ガーーーン! 「どうせ俺は汗臭いですよ! 修斗さんみたいにお洒落な香水とか持ってないもん!」 ゲラゲラ笑いながら修斗さんがコーラを飲んだ。 「いや、康介君の匂い俺好きだよ。運動いっぱいしてる感じ……男らしいよね」 涙ちょちょぎれるほど笑ったくせに、ちゃんとフォローもしてくれた。 ……てか、近い近い! 修斗さん、俺の首筋に顔を近づけ匂いを嗅いでる。なんなの? 恥ずかしすぎるんだけど。 「ねぇねぇ、中学のアルバム見たい!」 俺からパッと離れ、思い出したかのようにそう言う修斗さん。卒アルって、付き合いたての恋人かっつうの。恋人のお部屋に初めてお邪魔した時の定番行動。「アルバム見せて…」ってやつですね。 「そんなの見て楽しいっすか?」 言いながらも、すぐそこの机に置きっぱだからサッと修斗さんにアルバムを手渡した。 修斗さんは楽しそうに鼻歌を歌いながらページをめくる。 あ……修斗さん、指も綺麗。 「康介君見っけた! う〜ん、あんま今と変わんないね。つまんない……」 そりゃそうでしょうよ。卒業してから一年も経ってないし。そう言ったら「そうか」とアルバムを閉じようとした。 「えー? ちょと待って? これ竜太君?」 修斗さんが竜の写真を見つけ、大きな声をあげる。 「こりゃ酷いね!」 酷いねって……いや、確かにそうだと思うけど、言い方…… 確かに修斗さんの言う通り、当時の竜は髪の毛も伸び放題で顔にも重たく前髪がかかっている。全く表情も見えない状態だった。 「今と全くの別人!」 うんうん。周さんと出会ってから劇的な変化だ。 「最近の竜太君の色気、ハンパないもんね。ほんとあれは気をつけないと……」 「色気??男なのに?」 なんかピンとこなく俺は修斗さんに聞いた。 「康介君は気付かないかぁ。……でも竜太君かっこよくなってると思うでしょ?」 うん、色気はよくわかんないけど竜は間違いなく かっこよくなってる。 「はい……確かに……」 ふと顔を上げると目の前の修斗さんと目が合った。俺は一冊のアルバムを二人で顔を突きつけて見ていたことに今更ながら気がつき、どうにも近すぎる修斗さんの顔を見て一気に恥ずかしくなり顔が火照った。同時に胸がドキドキする。 なんなんだ…… 修斗さんが真面目な顔をして俺の目を見ながら顔を近づけてくる。鼻と鼻が触れ合いそうなくらいの距離で、ふっと笑った。 「今、俺見てドキドキしてるでしょ。これが俺の色気?」 いたずらっぽく笑って、修斗さんが俺の鼻をつまむ。 ヤバい……! ドキドキが止まらない。 「もー! 修斗さん! ドキドキして好きになっちゃいそうだから! 俺変だから! そういうのやめてください!」 思わず叫んで、堪らなくなって修斗さんを抱きしめた。そんな修斗さんは腹を抱えて大爆笑している。もうなんなの? この人! 超わけわかんない! そして、痛い視線を感じて部屋の入り口を見ると兄貴がポカンと口を開けて立っていた。 「珍しい客が来てると思ったら……お前らいつの間に付き合ってんの?」 やめて! 違うから! 修斗さんは笑いが止まらないのか、ヒーヒー言いながら涙を流している。 「修斗、康介こう見えて結構ウブだからさ、あんまりからかってやるなよ」 溜息交じりに兄貴が言った。 「兄貴遅かったね。圭さん今日学校だろ?」 俺がそう聞くとニヤニヤしながら答えた。 「ちょっと遅刻して学校へ送って行ったらさ、ちょうど体育の時間でね。圭ちゃんのジャージ姿が可愛くて、ちょっと木陰に隠れて応援してきた」 兄貴……そういうのは不審者として捕まるからダメだぞ。 「康介君、俺そろそろ行くね。夕方からまたデートなんだ」 笑いも落ち着いた修斗さんはそう言って帰って行った。なんとなくぽつんと胸に小さな穴があいた妙な気分になりながら、俺は修斗さんの背中を見送った。 「……凄い疲れた」 「大丈夫か? 今日は修斗と一緒だったんだな」 「うん……」 本当に今日は疲れたけど、正直言って凄く楽しかった。 恋愛してるみたいなドキドキ感も久し振り……って、いや相手は修斗さんなんだけどね。 ああ、俺も恋愛したいな──

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