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周の憂鬱とラッキーボーイ
「おい! 待てよ! おい!」
目の前を行く高坂に向かって俺は叫ぶ。今年のラッキーボーイを察した途端保健室から出て行きやがった。あのニヤケ顏、腹立つ!
高坂は俺を無視して先へ行くけど、すぐ追いつき詰め寄った。どうせまたこいつもエントリーするのだろう。
「お前、今年も参加すんのか?」
くるっとこちらを振り向き、わざとらしく驚いた顔をする高坂に益々俺はイラっとする。
「当たり前だろ? だって今年は竜太くんなんだよな? お前のその姿見りゃわかるよ。橘が体育祭って違和感しかないもん」
「………… 」
気持ちが焦ってしまい言葉が出ない。
「そうだなぁ……少しでも可能性のある黄組か白組にするかな? どう思う? お前もその方が都合がいいんじゃないのか? 保険としてさ。万が一の時は僕がいるよ? どう?」
そう言うと、高坂は写真部に歩いて行った。
参ったな。ほんと勘弁してくれよ──
ここ箕曽良高校の体育祭は、そりゃもう盛り上がる。
なぜかと言うと、生徒達の間で体育祭の勝敗でちょっとした賭けをするから。勿論教師達の与り知らないところで……のはずなんだけど、何故だか高坂はその事を知っているし、毎年参加してくるらしい。
賭けをするのは二年と三年。入学したばかりの一年生はその事実を知らない。なぜなら、その賭けの景品が一年生の中から選ばれたひとりだから……
景品が一年生──
選ばれた一年との一日デートを賭けて、参加者は金を払う。
ひとりワンコイン、五百円だ。そして集まった金がそのデート資金になる。デートって言ってもこの賭けに勝てばデート資金と銘打った遊ぶ金が手に入るわけだから、別に男が好きって奴じゃなくても参加するし勿論男が好きな輩は当たり前にこぞって参加をしてくる。優勝した組の中から選ばれた参加者とその一年がデート、もしくは賞金山分け、と言うわけだ。
そして、どうやってその景品を決めるのかっていうと……
入学してから文化祭までの間で目立ってる奴なんかを数人ピックアップするらしい。そうは言ってもだいたいが後夜祭でやるスライドショーで決まってしまう。
この賭けの実行委員が主に写真部の連中。学校行事、主に文化祭の様子を撮影しながら、目立ってる可愛い奴やかっこいい奴を写真に収めて後夜祭のスライドショーで公開する。そして後から数人ピックアップしたリストを二年と三年に提示してアンケートを取り、最終的に誰になるか決まる。
後夜祭でスライドショーを見た修斗から、今年は竜太がやたら写ってたって聞かされてた。
俺たちの嫌な予感が見事的中……
今年選ばれたのは竜太だった。勿論そんな事は竜太は知らない。教えたところでどうすることもできないし、動揺させるだけだ。
選ばれた一年生の事を「ラッキーボーイ」と呼ぶ。まぁ、選ばれた本人にしてみりゃ何がラッキーなんだ!って話なんだけど……
でも幸いな事に、優勝した組の中からデート相手を選ぶ権利はラッキーボーイにある。だから俺らの組、紅組が優勝すれば竜太は俺を選ぶ事が出来るんだ。青組の陽介さんにも事情を話して参加してもらった。そして、陽介さんの友達が白組だと言うからその人にも参加してもらえるようお願いしておいた。今度奢る約束をされたけど、ラッキーボーイの事に比べたらそんなのどうって事ない。これで万が一、俺たちじゃなく青組と白組が優勝しても竜太は安心だ。
あ、ちなみに昨年のラッキーボーイは修斗だった。修斗は喜んで高坂を含む三人とデートしてた。本当は一人しか選んじゃダメなんだけど、修斗は一人には絞れない! なんて理由で、手に入れた金を三等分して楽しくデートをしたらしい……
考えれば考えるほど胃が痛くなってくる。こんなバカバカしい事、なんでやんなきゃなんねえんだよ……くそムカつく!
絶対勝たなきゃいけないのに、運動不足が祟って体が重くて情けない。
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