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優勝するから
最近知らない先輩に声をかけられることが多い。
文化祭で撮った写真をわざわざ僕にくれようとクラスまで届けに来たり、突然ジュースを奢ってくれようとしたり、電話番号の書いてあるメモを渡しにきたり……あちこちから視線も感じる。
なんだか気持ち悪い──
「文化祭の時のあの格好で校舎をうろついてりゃさ、有名人にもなるわ」
康介にそう言われて、うん……と頷くものの、僕はそんなに目立っていたとは思えないんだけどな。
今日も放課後ジャージに着替えて外に出る。
騎馬戦の練習。僕だって何度も練習すれば普通に騎馬にだって乗れるんだ。支えてくれる人達を信じてバランスを保つ。なにも難しい事じゃない。僕がちゃんと乗りこなせるようになったので、騎馬戦の練習はもうおしまい。みんな帰っていったので、僕はひとりで色んな人たちの練習風景を眺めていた。
すぐ目の前のトラックで康介がリレーの練習をしている。流れるようなスムーズなバトンパス。みんな真剣……
康介達の練習してる向こう側に周さんの姿が見えた。周さんは何に出るんだろう? トラックの外側を走ってる。ジャージを着て、真面目な顔して走ってる周さんの姿。
相変わらず凄い違和感……
ぼんやり眺めていたら、いつの間にか隣に修斗さんが座っていた。
「竜太君も練習してたの?」
首にタオルを巻いた修斗さんが僕を見る。
「もう終わったから帰ろうかと思って……でもあそこで周さん走ってるから、少し待って一緒に帰ろうかなって思ってました。まだしばらく走ってるのかな?」
「そか、もうバテてるから周呼んでくるよ。一緒に帰ろ」
ふふっと笑い、修斗さんは周さんを呼びに行ってくれた。
僕らは教室に戻り、着替えを済ませて一緒に下校する。程よく運動をした後だからか、ちょっと気分がすっきりしている。周さんは相変わらず機嫌が悪そうだったけど。
「周さんと修斗さん、毎日凄い練習して……二人は何に出るんですか?」
そういえば聞いていなかったのを思い出し、興味があったから聞いてみた。
「練習っつっても、普段運動不足だから体慣らすために動いてるだけだよ。俺が出るのは1500mと借り物、棒倒しだな。応援しろよ」
そう言って周さんが笑う。
「俺は100mと棒倒しと色別リレー 」
こう見えて俺、足早いんだよ、と修斗さん。こう見えて……なんて言ってるけど、修斗さんも康介みたいに運動神経抜群なのを僕は知ってる。色別リレーなら康介も出るから二人の勝負が見られるかもしれない、と楽しみになった。
少し日も落ち、僕らの影が並ぶ。なんだか周さんと並んで歩くのは久しぶりかも。ちょっと嬉しかった。
「でもさ、ほんと竜太達は頑張らなくていいから。俺らが優勝するから応援しろよ」
まただ……
周さんはなんでやたらと「頑張るな」と言うんだろう。僕だって「負けませんから!」くらい言いたいのにな……康介なんて周さんにそう言われれば言われるほどやる気出して頑張ってるし。
「周さん、そんな事言うから康介がやる気になってますよ? みんな頑張ってるのに勝たなくていいなんて言わないでください! 僕ら白組だって負けませんからね!」
堪らず僕がそう言うと、修斗さんは「やれやれ」と言った顔をして周さんを見た。
「あのクソアホ康介が! なにやる気になってんだよ。あいつ足早えからタチ悪いんだよ」
「周、大丈夫だって、康介君なら俺が一番にはさせねえから。な? 」
修斗さんは周さんを宥めるように笑う。
そもそもやる気にさせたのは周さんだし、そこまで言われたら僕だって頑張っちゃうんだから。
「大丈夫だからな……俺が絶対優勝するから」
突然周さんが僕の頭をポンと撫で、優しい声で囁いた。
「………? 」
よくわからないけど、きっと周さんはどうしても体育祭で優勝したいんだろうな。こんなに負けず嫌いだったのかと驚くけど、ここは僕だって負けられないから。
「ふふ……僕らだって負けませんよ!」
周さんの心情を知る由もなく、僕はそう宣言して周さんに肩を寄せた。
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