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衝突
乾いたピストルの大きな合図で一斉に走者が走り出す。あっという間に選手が走り抜ける中、圧倒的に早いのが康介だった。一緒に走った中には陸上部の短距離の選手だっていたはずなのに凄い差をつけて康介が一着でゴールする。白組の応援席からは大歓声が上がった。
競技が終わると、顔を紅潮させた康介が応援席に戻ってきた。僕は「 康介お疲れ様!」と声をかける。クラスのみんなも康介に労いの言葉をかけていた。
「このどアホ康介! なに全力で走ってんだよ! ふざけんな!」
突然背後から周さんが康介に怒鳴りつけてきた。びっくりしてみんなも一気に静かになる。一瞬にしてその場の空気が凍りついた。表情を見れば周さんが真面目に怒っているのがわかる。周りのみんなはどうしていいのかわからないといった様子で視線を逸らした。そんな中、康介だけは立ち上がり、周さんに楯突くように前へ出る。
「はぁ? 周さんなに言ってんの? 白組勝つために全力で走るに決まってんでしょ。俺早えし負けねえし! こないだっからムカつくんですけど、なんなんですか?」
白組一年生達はピリピリした雰囲気に怖くて固まっている。康介も見たことないくらい怒っているのがわかるし、周さんが理不尽なことを言ってるから康介だって怒るんだ。康介も周さんも今にも殴り合いそうな勢いで睨み合っている。ただならぬ雰囲気に気付いた白組の先輩達が康介や周さんを宥めたけど、康介の怒りはどうしたっておさまらなかった。
慌てて僕も二人の間に立ったけど、これは周さんが悪い! 周さんの味方をしようがない。僕だって怒ってるんだ。
「周さん! 康介が一生懸命やって何が悪いんですか? ここは白組の応援席です! 紅組は向こうです! 文句言いに来るだけならもうこっちに来ないでください!」
僕は周さんに怒鳴ると、康介を落ち着かせるために「 康介は悪くない!」と肩を抱いた。周さんはそんな僕を見て何かを言いたそうな顔をしながらも 黙って紅組の応援席の方へ歩いて行った。
周さんが去っていくと、まわりのあちこちで溜め息が漏れる。
「渡瀬君……あんな怖い橘先輩によくああ言えたね。てか、康介も立ち向かっていくなよ! 超ビビるっ! やめて!怖いから!」
クラスメートが騒めいた。
「竜、周さんどうしちゃったの? こないだから変だよね! めっちゃムカつくんだけど!」
康介は怒り冷めやまず、僕に詰め寄る。負けず嫌いなら尚更腹も立つだろう。
ほんと、康介の言う通り確かに変だ……否定出来ない。
「そうだよね。周さん言ってる事めちゃくちゃ。康介怒るの当たり前だよ……」
そう言いながらも、僕は周さんのおかしな言動が気にかかる。
気づけば二年生と三年生の100m走も終わっていて、結局どの組が勝ったのか聞いてない。でも僕はもう勝敗なんかどうでもよかった。
綱引きが始まるので、また康介は綱引きに出るメンバーと一緒にグラウンドへ向かう。競技が始まると同時にまた応援の声が激しくなった。僕は応援の声もそこそこに、向こうに見える紅い鉢巻きの群衆の中に周さんの姿を探していた。
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