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賭け

救護テントに到着すると、周さんと修斗さんの姿が見えた。 椅子に座った周さんはやっぱり向こうを向いて僕の方を見てくれない。 「修斗さん、大丈夫ですか? みんな乱暴すぎて怖いです!」 修斗さんを見ると足に大きなパッドが貼ってあり、大きく擦り剥けているのがわかった。チラッと周さんを覗き見ると、顔に数ヶ所絆創膏、腕と足にもパッドが貼られ痛々しかった。 今すぐ周さんに駆け寄りたい衝動にかられるも、また拒否されるんじゃないか、激昂させてしまうんじゃないかという不安感で近寄れなかった。 もどかしい…… 周さんを気にしつつも修斗さんと話していると、近くにいた二年生も話に入って来た。修斗さんの友達かな? 僕はあまり気にせず修斗さんと話を続けた。 「俺、紅組じゃなくてよかったよ! 紅組だったら渡瀬君、絶対橘か修斗を選ぶもんな。今青組がリードしてんぞ。 修斗知ってた? 紅組ピンチじゃね? ざまあ……」 その人はニタニタと笑い、僕の顔をチラッと見る。なんの話だろう? 僕? 選ぶって何? 話が飲み込めず困惑していると、横から物凄い形相の周さんが近付いてきた。 「テメェ、また殴られてぇのかよ! 余計なこと話してんじゃねえよ! あっち行け! 勝つのは紅なんだよ!」 周さんの剣幕に、その先輩は驚いて大急ぎでテントから出て行ってしまった。 「橘、こっちに来い! お前もう暴れんな!」 周さんは高坂先生に捕まえられてまた奥の席へ座らされた。 僕は縋るように修斗さんを見るも、修斗さんは 「まぁまぁ」と何もなかったかのように振る舞った。周さんは何をそんなに怒ったの? 余計なことって何? 僕は気になってしょうがなかった。 「周も俺も、怪我は大したことないから気にすんなって。周も体育祭終われば落ち着くと思うし……次、騎馬戦出るんだろ? 応援してるよ、頑張ってね」 修斗さんに笑顔で手を振られ、なんだか追い出されるような形で僕は白組ブースへ戻った。 席に戻ると康介が心配そうに僕を見る。康介も周さんのことが心配なんだ。 「大丈夫だよ、周さんも修斗さんも怪我は大したことないって」 そう伝えると康介の顔が綻んだ。 高坂先生やさっきの先輩が話していた事…… 何かが凄く引っかかるけど、なんて康介に話していいのかわからずに言えないでいると、康介が話し出した。 「あのさ……体育祭が盛り上がってるのって、俺思うんだけど……多分さ、先輩達 賭け事してんだよ。それなら納得いく。そう思わね?」 康介が考えながら辿々しくそう話してくれた。なるほど……それならこれだけ盛り上がっているのも頷ける。お金でも掛かっていれば皆んな勝ちたくて頑張るよね。 「………… 」 エントリー 黄組が勝ったら僕を選びなね…… 俺、紅組じゃなくてよかったよ…… 渡瀬君、絶対橘か修斗選ぶもんな…… 今までのいろんな言葉が頭を過る。 周さんのあの様子。考えたくないけど……もしかしてその賭けに、まさか僕も関わってるんじゃ? まさかね。 でも考えれば考えるほど、不安感が増し落ち着かなくなってくる。こんな考え、怖くて康介にも言えなかった。 気のせいであってほしい……僕は何も関係ない。 僕が黙り込んでいると、心配そうな顔で康介が覗き込む。 「……どうした? 竜、顔色悪いぞ」 「あ、ごめん。大丈夫……次、僕 騎馬戦頑張るね」 僕は康介から離れ、騎馬戦に出る仲間のところへ向かった。 白組の先輩達から声をかけられる。 「騎馬戦、危ないから気をつけてね!」 ……あ、危ない? 横にいる根本君と顔を合わせる。騎馬戦が「危ない」なんてこれっぽっちも考えてなかったから、先輩の言葉に緊張が走る。 「だ、大丈夫だよね。棒倒しみたいに乱暴じゃないよね……」 さらなる不安を抱きながら、僕らは騎馬戦の集合場所に向かった。

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