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騎馬戦
僕らは騎馬戦の集合場所にいる。
騎馬戦も棒倒しと同じく学年混合で競い合う。各学年各クラスに二騎ずつで相手の騎手がかぶる帽子を奪い合うんだ。
やっぱり学年混合で並ぶと、僕ら一年生の騎馬は何だか頼りなく感じてしまう。僕は軽いからという理由で騎馬に乗ることになったけど、先輩達の騎馬を見ると乗ってる人もなんだか体も大きくて厳つく見えた。
線の内側に並び入場の合図を待つ。
「すぐ取られちゃってもいいからね。怪我しないように頑張ろうね」
騎馬の皆んなからそう声がかかる。きっと上に乗ってるだけの僕より、相手に向かっていかなきゃならない騎馬の方が怖いと思うから、無理はしないで頑張ろう!とお互い声を掛け合った。
スタートの合図と共に一斉に騎馬が走り出す。
あちらこちらで騎馬がぶつかり合っている。激しい帽子の奪い合い。
僕らも敵の騎馬に向かって……と言うか、騎馬に追いかけられ、追い詰められて帽子の奪い合い。仰け反る僕を敵の騎手が何故か落ちないように支えてくれながら、優しく僕から帽子を奪っていった。
「竜太君ごめんね、帽子はいただくよ」
僕が知らないその先輩は、そう言って走り去っていった。
「………… 」
一回戦は紅組の勝利。遠くで歓声が聞こえる。足元から仲間が何か言ってるのが聞こえてくるけど僕の頭には入ってこない。
また僕は考え込んでしまっていた。
なんで僕の知らない人が僕の事を知ってるの? なんで僕の名前を呼ぶの? さっきの先輩も「竜太君ごめんね」って……
ふと体が揺れるのを感じ、我にかえる。いつの間にか二回戦目が始まっていた。
やっぱり僕らは敵に向かっていく事が出来ず、追いかけ回される。横を見ると揉みくちゃになって騎手同士が殴り合いしながら帽子を奪っていた。その乱暴な光景に呆気に取られているうちに、後ろからサッと帽子を奪われてしまった。
「竜太君の帽子ゲットー! 」
あ……まただ。
振り返って見ても、さっきとはまた違う先輩だった。こんな人、僕は知らない。
「どんまいどんまい! もう少しで終わる! 頑張ろう!」
もう全く声なんか耳に入ってこなかった。
気持ち悪い……なんでみんな僕の事を知ってるんだろう。
周さんが、自覚しろ! って言っていた。
こういう事なの……?
でも、なんで……どう考えても疑問しか湧かなかった。
「渡瀬君!」
突然頭に衝撃が走ったと思った瞬間に、僕の意識はどこかへすっ飛んだ。
ん……ん? ここは? 保健室?
「周さん??」
目を開けると、目の前に怖い顔をして覗き込む周さんの姿が飛び込んでくる。横には修斗さんと高坂先生。
「なんで、ただ走ってるだけで落馬すんだよお前は……」
僕に向かって半分呆れたように周さんが怒鳴った。ちょっと待って? 状況がわからない。
「竜太君、騎馬戦の途中で落っこちたんだよ。誰ともやり合ってないのに一人で勝手に落ちてたよ」
修斗さんも呆れ顔で僕に言った。
騎馬戦?
あ!そうだった。僕は騎馬戦をやってたんだよな。
……落ちちゃったんだ。
慌てて起き上がろうとしたら押さえられ、まだ横になってなさいと高坂先生に怒られてしまった。
「考え事しながらやってたらそりゃ落ちるでしょう。そうでしょ? 竜太くん」
僕の顔を見ながら、高坂先生が言う。
だって……
「僕の知らない人がみんな僕の事を知ってて……竜太君、竜太君って。なんか気持ち悪くて……」
僕はこれまでの不安を吐き出した。
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