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決着!優勝の行方
絶対に周さんがいるはず…… 僕はドアをノックしながら「周さん?」と声をかける。鍵はしまってなさそうだったので、そっとドアを開けてみると案の定、周さんがそこにいた。
怖い顔をして睨んでくるけど、もう大丈夫。周さんのこんな態度の理由はちゃんとわかってるから。僕は怯むことなく周さんに近付いて行き、何も言わない周さんを抱きしめた。
「周さん……僕のためにいっぱい頑張ってくれてありがとうございます」
ぎゅっと抱きしめている僕の背中に遠慮気味に周さんの腕が静かに触れた。
「周さん? もっとちゃんとギュッてして下さい!」
周さんの心臓、ドキドキが僕に伝わる。僕に対して申し訳ない気持ちになんかならないでほしい。だってしょうがなかったんだもんね。
「竜太……さっきはごめんな」
僕の耳元に顔を寄せ小さな声で周さんがそう言った。そしてやっと僕の事を強く抱きしめてくれた。いつもの周さんの声にブワッと身体中暖かく感じる。嬉しくて涙が出そうになった。
「竜太の応援の声、俺、嬉しかった……おかげで一位になれた」
よかった。ちゃんと僕の声が届いてた。
「僕のおかげなんかじゃないです。周さんがいっぱい頑張ったから……でも僕の声で元気が湧いたのなら凄く嬉しい」
そう言って僕が顔を上げると、周さんと目が合う。少しだけ躊躇った様子で僕の頬に伝った涙を指で拭ってくれた。
「僕、修斗さんから全部聞きました。僕のせいで周さん辛い思いさせちゃってごめんなさい」
僕は周さんの頭を捕まえ引き寄せ、強引に唇にキスをした。恥ずかしかったけど、僕はそうしたかったんだ。
周さんは首を振り「お前が謝るな」と言う。「辛い思いをさせた、悪かった」と謝る周さんに、僕も「謝るな」と反論し、お互い笑顔でもう一度抱きしめ合って、キスをした。
「最後のリレー、これで決着つきますね……」
勝っても負けてもこれが最後。周さんは「心配するな」と優しく頭を撫でてくれる。心配したってしょうがない…… 僕は「なるようになれ!」という気持ちで応援席に戻った。
色別リレーは最後の種目だけあって声援と応援団による応援合戦が凄まじい。
僕が応援席に戻り見た時には、白組と紅組、青組の接戦だった。どこが勝ってもおかしくない状況。次はアンカー対決だ。ほぼ同時に修斗さんも康介も走り出し、流れるようにバトンを受け取る。僕は仲間と一緒に夢中で叫んでいた。
「頑張れーーーー!」
修斗さんと康介が一緒にゴールを走り抜ける。僕の位置からは正確な順位がわからない。それくらい僅差。緊張が走る中結果が発表され、一位でゴールしたのは紅組だとわかった。僕は興奮を押さえきれずに、小さくガッツポーズをしてしまった。
色別リレーは一位が紅組、二位が白組、三位が青組──
ここまで紅組も一位が多い印象だったから、もしかしたら紅組が優勝かもしれない……そう希望が見えた気がした。
閉会式、校長先生の話の後に体育部顧問が最終結果の発表、優勝チームの発表をする。
いよいよこの時……周りが静まり返り緊張が走る。
「今年度の優勝は………青組! 」
発表と同時に大歓声が湧き上がった。
嘘だ……青組が優勝? 紅組じゃなかった。信じられない。
体の力が抜けていく。どうやら紅組と青組はたった一点の差だったらしい。僕は紅組の方を見たけど、周さんの姿はもう見当たらなかった。
周さん……凄い心細いよ。
どうしよう……
そして青組からの視線を感じてしまい、怖くなった。
目の前の斉藤くんも何かを感じたのか不安そうな顔をして僕を見るけど、そんな斉藤くんに僕は「どうしたの?」と、なんでもない風を装うことしか出来なかった。
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