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周さんが僕の母さんと楽しそうにお喋りをしながら朝食をとっている。 不思議な光景── 初めて周さんが僕の家に来た日、見かけによらず礼儀正しくしっかりしていると母さんが周さんの事を褒めてたのを思い出す。こうやって仲良さそうに話してる二人を見て、僕は嬉しくなった。 「周さん? そろそろ行かないと……」 すっかり寛いでしまっている周さんに声をかける。 「今度はうちに泊まりにいらっしゃいね、周君」 母さんが嬉しそうに周さんの肩を叩いた。すっかり母さんに気に入られてしまった周さんも、嫌な顔せず「そうする!」と返事をする。にこにことご機嫌な母さんの「いってらっしゃい」を背中に受けて、僕と周さんは学校に向かった。 「なんか母さんがずっと喋っててすみません。相手するの面倒だったですよね?」 周さんは首を傾げ、「全然? 楽しかったぞ」と不思議そう。 「いや、竜太の母ちゃん!って感じで俺、凄え好き。ほんと今度は俺が竜太んち泊まりに行くから!」 周さんの言葉に僕はホッとした。 「おーーい!おはよ、竜……あ? あと周さん」 後ろから康介が声をかけながら走ってくる。周さんがいたからびっくりしてるみたい。 「なんだよ康介、ついでみたいに言うなクソが!」 「朝っぱらからクソとか言わないでくださーい!って、なんで周さんがいるの?」 康介は周さんの不機嫌にはおかまい無しにそう聞いた。 「竜太は昨日俺んち泊まったから、荷物取りに一緒に戻ったんだよ。一緒にいちゃ悪いかよ?」 周さん、ますます不機嫌度が上がる。 もう……なんでいっつも康介にはこんな態度なんだろう。 でも康介はそんな周さんを気にする風でもなく、ふぅん と気怠そうに返事をした。 「朝から周さんと一緒なんてラブラブだな」 康介は僕の方を見て笑う。それから思い出したかのように周さんの方を振り返り足を止めると、申し訳なさそうに頭を下げた。 「周さん、俺……殴っちゃってすみません」 康介も絆創膏は取れたものの、周さんの顔に残る傷を見て深刻な表情を見せる。そしてもう一度「ごめんなさい」と謝った。 「いいよ康介……悪いのは俺なんだし。俺がお前らにあたっちまった。ごめんな……俺、竜太の事でおかしくなってた。本当にすまん!」 周さんも今回ばかりは素直に謝る。康介の前で深々と頭を下げるもんだから、康介は驚いちゃって「いやいやいやいや!周さんらしくねえから!やめてっ、気持ちわりい!」って慌ててる。僕はそんな二人を見て思わず笑ってしまってすぐに和やかな雰囲気になった。 「まあさ、康介も竜太の事よろしくな! 絶対一人にすんなよ。あぶねえから……」 突然周さんに言われて康介は困惑している。そうだよ、康介は体育祭の賭けの内容を知らないんだから…… 学校に着くまでの間、僕は康介にラッキーボーイの話を説明した。 「はぁーーー? なにそれ? 誰がそんなアホな事考えたの? 馬鹿なの? いい迷惑じゃん!」 康介の言う通りだよ。全く僕も同意見。 「でも文化祭、目立ってたもんなあ。周さんと付き合うようになってから妙に色っぽいしさ……」 康介が呟き、周さんが大きく頷いた。 「やっぱりそうだろ? お前もそう思うだろ?」 最近よく言われる「色っぽい」とか「可愛い」とかは男の僕に使う言葉じゃないじゃん!なんでそんな事を言われてしまうのか、わけがわかんない。修斗さんとか「褒めてるんだよ」なんて言うけど、正直言って僕にとってはあまり気持ちのいいものじゃない…… 「僕、文化祭で目立った覚えはないし! 色っぽいって……僕 男だし! そんなわけないじゃん!」 二人に向かって僕は少し声を荒らげ文句を言った。 「ほら……これだよ。当人全く自覚なしだから余計に怖えんだよ」 周さんはそう言いながら僕の頭をクシャッとした。

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