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アピール合戦始まる

学校につくと「また後でな!」と周さんはどこかに行ってしまった。周さんの向かった先は二年生の方じゃなかった。 あれ? またサボるのかな? 僕は特に気にせず教室に向かう。すると早速知らない先輩に声をかけられた。 二年生かな? 三年生かな? それすらわからない知らない人。 「僕さ、渡瀬君のこと凄くタイプなんだよね。これを機に付き合おうよ!ね? 僕、優しくするよ」 いきなりの言い分に驚いて固まってしまう。 なんだこれ…… 「竜は誰とも付き合いませんよ!」 何も言えないでいる僕の代わりに康介が先輩に言ってくれた。康介が口を出した途端、その先輩は怖い顔をする 「ああ? お前には聞いてねえよ! 黙ってろ!」 はあ? なにそれ、今度は喧嘩腰……もうやだ。 康介もそんな先輩なんかに怯まず、食ってかかる。喧嘩でもされたらたまらないと思って僕は慌てて康介を引っ張ろうとしたら、今度は別の先輩が現れて僕に優しく話しかけてきた。 「危ないからあっちに行こうね……」 その先輩に肩を抱かれ、至極自然な流れで歩き出す。僕はなにがなにやら、驚いてしまってどうしたらいいのかわからなくなってしまった。とりあえず、この肩を抱いてる手を離してほしい…… 「こ……康介」 先輩と睨み合っている康介は僕のことに気がついていない。どうしよう…… 離してくださいって言わなくちゃ……そう思って振り返ったら、志音が怖い顔をして「おはよう!」と声をかけてくれた。 「ちょっとなにやってるの? 竜太君、教室はこっち! 先輩、誰? 離してください」 その先輩から僕のことを引き離してくれた。 「竜太君、早く教室行こっ」 僕は志音に連れられて、やっと教室に入ることができた。 少し遅れて康介も教室に入ってくる。もうその顔は見たこともないくらい怒っていた。隠すことなく「くっそムカつく!」と吼えている。 「ありがとう、康介。志音、助かったよ……」 僕がふたりにお礼を言うと、志音が怪訝な顔をして廊下の方を見た。これから志音に聞かれるであろう事が手に取るようにわかる。もうバカバカしくて説明するのも嫌だった。 「ねえ今の誰? 二年? 三年? 竜太君の知ってる人……じゃないよね?」 志音もあからさまに不愉快そうな顔をする。 「竜も! あんなのダメ! もっと強気で拒否らないと!……まあグイグイくるからビビったけどさ」 康介に怒られてしまった。 確かにそうだ…… 当事者の僕がもっとしっかりしないと皆んなに迷惑かけちゃう。 「うん……ごめんね。ほんと、あんなに直球で来るとは思わなくて僕もびっくりした。次からは気をつける」 志音が僕らのやり取りの意味がわからず、聞きながら首を傾げている。志音は体育祭の前前日あたりから体育祭まで、仕事の都合で学校を休んでいた。体育祭の練習風景の異常さには気がついていたけどその理由までは知るはずもない。僕が説明を躊躇っていると、康介が代わりに志音に説明してくれた。 「はぁ? なにそれ? 誰がそんな馬鹿な事考えたの?……暇なの? アホなの?」 ……デジャブかな? そして心配そうな顔をして僕を見た。 「竜太君、本当気をつけてね。で、竜太君は誰を選ぶの? その辺は大丈夫なの?」 とても不安げに聞いてくるから、それもちゃんと説明をした。 「青組の陽介さん、あ、康介のお兄さんなんだけどね、こないだ会ったよね? 僕はその人を選ぶって決めてるの。康介のお兄さんだし、ちゃんと彼氏もいるから安心でしょ?」 僕の話を聞いて、志音は康介の兄に彼氏がいる事に驚いていた。まぁ、そこは驚くよね。僕も康介も初めて聞いたときは驚いたもん。 「それなら大丈夫だね。とにかく、一週間、気をつけよう!」 志音も出来るだけ僕と一緒にいてくれると言ってくれたから心強かった。 みんなありがとう…… 朝からいきなりのお誘いに驚いたけど、蓋を開ければそんなもんじゃなかった。 休み時間のたびに視線が痛い…… 廊下からこっちを見ている先輩達の目、目、目…… 僕にアピールする先輩以外にも「どいつが渡瀬だ?」と、興味だけで見に来る人もいるから、一年のフロアは混雑して迷惑極まりなかった。 昼休みは康介と逃げるように屋上へ行った。 屋上へ行くと、周さんと修斗さんが既に奥のベンチで寛いでいた。 「どう? 竜太君無事?」 僕らの後について来てる数人の先輩方に目をやりながら、楽しそうに修斗さんが僕に聞く。 「……朝からいきなり、凄くタイプだから付き合ってって言われました」 修斗さんはゲラゲラ笑ってる。僕はちっとも面白くない。 周さんも不愉快な顔をして、笑っている修斗さんの頭を結構な力で小突いた。悶絶する修斗さんを無視して周さんが僕に言った。 「誰かに言い寄られたら、ちゃんと選ぶ奴を決めてるって言うんだぞ!」 その日の放課後、帰ろうと下駄箱を開けると何通もの手紙が入っていて驚かされた。 こんなの漫画やドラマでしか見たことないよ。ハートが描いてあるのもあるから、きっと……いや読むまでもなくこれらは全部ラブレターなのだろう。心情的にどうにも捨てることもできなくて、しょうがないから僕は鞄の中にその手紙の束をしまい込んだ。

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