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陽介さん

何だか下半身に違和感を感じ、目を開けるとお腹あたりに知らない人の顔があった。 「………… 」 「……だ、誰?」 スースするのはその人にズボンを脱がされているから…… え? この人は一体ここでを何やってんの? 寝起きの頭で状況についていけない。僕は驚きのあまり声が出なかった。 「あ、ごめん……流石に起きちゃったか。……ちょっと味見、してみたくなっちゃって」 その人は「てへ」といった風に笑い肩を竦めると、そのまま僕のパンツに手をかけた。 味見って何? 何味見するの? へ? えっ? 混乱してわけがわからなかったけど、その人が僕のパンツに手をかけたことでハッとした。 「やだ! 何ですか? やめてください!」 既のところで僕はパンツを死守し、その人を睨んだ。 「渡瀬君、起きてから自己紹介しようと思ったんだけどさ、あんまりに可愛い寝顔だからちょっと味見するだけでもいいかなぁって思って……」 やだやだやだ! だから味見って何なんだよ! おかしいって! 「僕は食べ物じゃありません!」 僕はパンツをギュッと掴み、震える声で抗議した。 「あれ? 誰かいるの?」 戻ってきた高坂先生がカーテンを開けると、その人は逃げるように出て行ってしまった。呆然としてる僕を見て高坂先生が「竜太くん、パンツ……」と呟く。変なところを見られてしまったと、僕は慌てて布団で隠した。 「ごめん、ちょっと保健室出てた……もしかして何かされたか?」 僕は小さく首を振る。あの状況は何かされていたとは思うんだけど、なんと言ったらいいのかわからなかった。 「全く油断も隙もねえな……」 高坂先生の言葉に、僕は溜まってたものを吐き出してしまった。 「なんだよ! この一週間、僕に何してもいいって事じゃないですよね? 周りの目が気になって気になって……しんどいからここに逃げ込めば寝てる間にパンツ脱がされそうになるし! ……味見ってなんだよ! 味見? は? 僕は食べ物じゃない!」 僕の剣幕に高坂先生は「まあまあ、落ち着けって」と、半笑いで僕の肩に手を置く。笑い事じゃない! 段々僕は腹が立ってきてしまった。 ふと気がつくと高坂先生の後ろに鬼の形相の陽介さんが立っている。 「パンツって……てめぇ! 竜太君にまで手を出したのか? あ?」 凄い怖い顔で、先生に掴みかかる勢いで陽介さんは怒り始めた。怒ってる顔が康介そっくり……って、でも待って陽介さん? それは誤解! 慌てて高坂先生が陽介さんに説明を始めた。 一頻り説明を聞いても陽介さんは「お前ならやりかねない!」と、まだ納得のいってない様子で怒っている。 「酷いなぁもう……僕は竜太くんをかくまってあげてんだよ? 感謝しなさいな」 先生が自分でそう言うも、「目を離した隙に襲われてんじゃ話にならねえ!」と、陽介さんに怒られてしまった。 「竜太君、今日は俺と一緒に帰ろう? 康介、今日はサッカーなんだとさ」 陽介さんはわざわざそれを僕に言いに来てくれたんだ。 「ありがとうございます。じゃ、放課後に……」 僕は陽介さんが出て行った後も、結局保健室にいても落ち着かなくて、教室に戻ることにした。 放課後、陽介さんが迎えに来てくれた。クラスのみんなはまた上級生か……といった顔をしたけど、僕の知ってる人だとわかると興味津々でジロジロ見てくる。陽介さんもそんな空気に気が付いて少し居心地が悪そうだった。 「陽介さん、すみません。なんか僕のせいで……」 変に注目を浴びてしまってる陽介さんに申し訳なくて謝ると、笑って竜太君は悪くないと言ってくれた。 学校からの帰り道、何人かに声をかけられその度に陽介さんが対応してくれる。 「竜太君は俺とデートするって決めてるから」 そうして僕の体を引き寄せて相手に見せつける。大抵の奴は、それを見て諦めて帰っていった。 「もうさ、いちいち面倒だから竜太君俺にくっついて歩いてよ」 そう言うと、陽介さんは僕の腰に手を回しグイッと引き寄せた。びっくりしたけど、それもそうか。 僕は出来るだけ陽介さんにくっついて歩いた。 ……でもこういうのって周さん、ヤキモチ焼いちゃいそうだよな。 てか、周さん、今日は姿を見てないや。 何やってんだろう? 僕の事心配なんだよね……? 周さんに放っておかれているようで、ちょっと寂しくなってしまった。 「あれ? 竜太君どした? ごめん、嫌だった?」 急に黙り込んだ僕を見て、陽介さんが慌てて話しかけてきた。 「あ、いや……違うんです。周さんの姿、見てないなって思って。あんなに心配してくれてたのに… 」 僕がそう言うと、「周は今、害虫駆除に忙しいんだよ」と、陽介さんは笑った。

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