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幸せなひと時

圭さんに言われた通りに野菜を切って、あとは全てお任せして僕もリビングへ戻った。陽介さんが相変わらずのゴロ寝スタイルでウトウトしながらテレビを見てる。 ……あ、本当に寝ちゃいそう。 「圭さん……陽介さん、寝ちゃいそうです」 僕はそっと圭さんに伝えると「子どもかよ!」と笑い、陽介さんにブランケットを掛けた。 しばらくすると靖史さんと周さんが到着した。ドカドカと騒がしく周さんが入ってくるなり、僕に抱き付いてきてびっくりしてしまう。 「りゅーーたぁーー! 会いたかった!」 ちょっとこのテンションについていけない。ぎゅうぎゅうと僕を抱きしめる周さんはすこぶる機嫌が良さそうだからそれはいいとして、一体どうしちゃったんだろう。後から靖史さんが入ってきて、周さんがご機嫌な訳を話してくれた。 どうやら僕の家まで押しかけ襲ってきた先輩を周さんが突き止めて、ぶっ飛ばしてきてスッキリしたらしい。 それでご機嫌でこのテンション? よっぽど鬱憤溜まってたのかな。なんだか申し訳ない…… このまま押し倒されそうな勢いだったので、何とか周さんから体を離してお礼を言った。 「ぶっ飛ばしてくれてありがとうございます……」 あまりの騒がしさに陽介さんが起きてしまった。 「周……うるさい」 ジロリと怠そうに周さんを見る陽介さん。そして思い出した様子で、周さんに怒りだした。 「周! お前学校で竜太君にやらしい事してんなよ! 全く信じらんねえ」 学校での恥ずかしかったことを思いっきり陽介さんに言われてしまった。それこそ信じらんない! 陽介さんもそんな事靖史さんや圭さんの前で言わないでよ、恥ずかしい! 「やらしいってなんだよ、誰がつけたかもわからねえ竜太のムカつくキスマークに俺が上書きしただけだってば! そいつもさっきぶっ飛ばしたからもういいんだけどよ。でも陽介さんだって圭さんがそんな目にあったらムカつくだろ?」 周さんの反論に陽介さんが激しく頷き、それならしょうがないと笑ってる。 ……なんなの? そういうもの? 可愛い牛のデザインの鍋つかみで、圭さんが出来上がった鍋を持ってきた。 「おまたせ、鍋できたよ。 竜太君、大変だよね…… 君らの学校はアホなことするよね」 「家にまで侵入って、一歩間違えれば犯罪だよ。怖えな」 圭さんも靖史さんも呆れている。 確かにそうだ……思い出すだけでゾッとした。何事もなくて本当によかった。 「カンパーイ!いただきます」 みんなで食べる夕飯は楽しい。僕は周さんに取り分けてあげながら、野菜を切るのを手伝った事を話すと周さんは凄く褒めてくれた。やっぱり褒めてもらえると嬉しいもんだな。 「毎年体育祭はこんな賭けしてんの? 選ばれた人、いい迷惑だよね」 圭さんの言葉に周さんが大きく頷く。 「ほんと毎年バカみてえ。去年は選ばれたのが修斗だったんです。修斗は自分で蹴散らしてたからいいけど、竜太は心配で心配で……」 周さんがそう言って僕の頭を撫でた。でもあと二日で一週間も終わるし、大丈夫。 「でも、僕大丈夫ですよ? みんなも助けてくれるし」 そうだな、と陽介さんも僕を見る。 「多分明日からはあんまりアピールされないと思うぞ。俺、頑張って潰してきたもんよ! 」 得意げな周さんの顔。僕は鍋をつつきながら周さんの話を聞いていた。潰してきたってどういう意味だろう……? 周さんがそう言うなら、本当にもうアピールしてくる人は少ないんだと思う。 心配かけてしまうのは申し訳ないと思うけど、後少しの辛抱だ。 「それにしてもこの鍋、超美味いよな」 鍋をつつきながら靖史さんが絶賛する。そう、これは圭さん特製のキムチ鍋。作ってるの見てたけど、圭さんキムチ以外にも色んな調味料を入れていた。凄い手慣れた感じに調理してるのが印象的だったな。 圭さんは料理してる姿もかっこいい。 楽しく皆んなとお喋りをしながら美味しい物を食べる。こんな幸せなひと時を過ごしているのに僕は眠くなってきてしまった。 きっと最近よく眠れてないからだ…… だんだんと皆んなの笑い声が遠くなる。 あ……ダメだ、 眠すぎる。どうしよう…… どうしようもできなくて、そのまま僕は眠ってしまった。

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