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尾行

小さく「あっ」 と溢した周さんはアイスコーヒーを一気に飲み干すと、立ち上がり外に出て行く。見ると竜も兄貴も行き先を決めたのか移動を始めたらしく、その先を歩いていた。 周さんと俺は二人と一定の距離を保ちながら後をつけ始めた。 何やってんだかな…… そうそう、周さんと二人で歩いていて気づいたことがある。 周さん、やたらと知らない人に声かけられる。女からの逆ナンだったり、男からのナンパだったり、はたまた喧嘩売られたり。美容師からのカットモデルの勧誘やら宗教関係やら…… ちっとも前に進まない。 なんなのこの人? 周さんの風貌ってどちらかと言えば声を掛けにくいタイプだよね? 俺なら迷子になっても周さんには絶対に声なんかかけねえよ? 摩訶不思議…… 周さんは一人ぶつぶつ何かを言いながら歩いている。大丈夫かな? 怪しすぎんだろ。俺は渋々怪しい周さんと並んで歩いた 突然周さんにグイッと体を抱き寄せられ、俺は歩道の内側へ入る。すぐに自転車が横を通り過ぎ、俺がぶつかりそうになっていたことに気がついた。周さんは俺と位置を代わり車道側を歩いている。「すみません」と言おうとして顔を見たけど相変わらず怖え顔してぶつぶつ言ってるから俺は何も言えなかった。 もしかして無意識の行動? は? ナイスガイかよ! ドキッとしちゃうじゃん、周さん怖え…… しばらく竜達の後をつけていくと、二人は映画館に入っていった。看板を見て何の映画を観るのかすぐにわかった。兄貴がずっと観たがっていた映画…… でもあれホラー映画だけど、竜のやつ大丈夫なのかな? 映画館の中に入っていった二人を見届けると、今の今まで俺の事を空気か何かと思っていたであろう周さんが、やっと口を開いた。 「康介、行ってこい」 ……はい? 「え? 映画観るの? 周さんは?」 周さんはすぐそこのガードレールに腰掛け、「観ねえよ。康介が行ってこい」と言ってのけた。 周さんホラー苦手なんだきっと。てかさ、お金は? 俺、自腹かよ?? 「周さん、金は? 俺、そんなに金持ってないっす、ごめんなさい……」 ねえ、舌打ちされたよ? 何で俺、観たくもない映画に自腹切らされそうになってんの? もう! 理不尽! 周さんはあれから姿勢を変えず、じっとガードレールに腰掛けてる。つまんなそうな顔しちゃってさ…… 「ねえ周さん、ここにずっといたら竜達出てきたら見つかっちゃいますよ?」 ここは映画館の出入り口のまん前だ。ここで待ってたら鉢合わせちまう。 「そか……」 俺の言葉にそうひと言だけ言うと、周さんはゆっくりと立ち上がる。何だよ、ほんと周さん元気ねえな。 「映画始まったばかりだし、しばらく出てこないからそこの茶店でお茶しましょうよ」 休みで折角出かけてんのに、楽しまないと時間がもったいない。竜の事ばっかで周さんの元気がないのはなんか嫌だし、俺はこの状況を楽しみたいと思った。俺はぼんやりしている周さんの腕を引っ張り、やや強引に向かいの喫茶店に入った。窓際の席に二人並んで座り、映画館の入り口が見えるようにする。 「ほら、ここからなら出てきたのもわかるじゃん!ベスポジっすね!」 周さん、最初はイライラと機嫌が悪かったけど、時間が経つにつれどんどん元気が無くなってきた。全然周さんらしくない。俺に悪態ついてこない周さんは気持ちが悪い。 「周さん? 俺とこうして二人でいて、やましい気持ちになります? 俺とどうこうしようって思います?」 堪らず聞いてみると思いっきりムッとした顔で「はあ?」と溢す。 「馬鹿じゃねえの? んなわけあるかよ!」 「……でしょ? 竜も兄貴も一緒ですって。だから全然心配する事ないと思いますよ」 俺は元気づけようとそう言った。

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