158 / 432

尾行再開

「いやさ…… 」 周さんが俯いたまま話し出した。 「うん、二人の様子見てたらその事の心配は無くなった……たださ、俺 竜太とろくにデートしてなかったなって思って。竜太の楽しそうな顔見てたら、なんかなぁ……」 休みの日とかデートしてなかったんだ。周さんバイトしてるって言ってたし、竜は自分からどっか行こう!って言うタイプじゃねえもんな…… 元気がないのはそういうことだったんだ。周さん、めちゃくちゃ寂しそうな顔になっちゃったじゃん、ヤダこれしんどい。 「そうだ! 周さん、俺があげた遊園地のチケットと宿泊券あるじゃないですか! 丁度いいじゃん! 竜と楽しんできてくださいよ」 思い出してそう言うと、やっと周さんに笑顔が見えた。 「本当そうだな。康介、ありがとな……」 「竜って友達が俺くらいしかいなかったから、きっと色んな事経験してないと思うんですよね。だから周さん竜を色んなとこ連れてってやって下さいよ。絶対喜ぶと思うな!」 竜は一人でいることが殆どだった。周さんには言わなかったけど映画館だってきっと竜は初めてだったんじゃないかと思う。 俺がD-ASCHのライブに誘った時の事を思い出した。まるでデートにでも行くかのように、当日は何を着て行こうって嬉しそうに悩んでいた竜。夏休みの合宿旅行だって、考えると楽しみで眠れない! とか、周さんに内緒でプレゼントを買うんだ! とか、ワクワクしていた竜。 こういう竜を周さんはどれくらい知ってるのかな。 「周さん、竜って周さんと知り合ってから凄い変わったんですよ。知ってた? 自分からは誰とも話せなかったし、身嗜みも気にしてなかった。感情もあまり表に出さなかったのが、今はどうです? 幼稚園の頃から一緒にいた俺ですらこんなに竜を変えてやる事なんて出来なかったのに……なんなの? 凄くねえ?」 そう言うと周さんは照れ臭そうに目を伏せた。 「もうちょっとしたら帰るか……」 周さんは機嫌が直ったのか、明るい声でそう言った。 ふと映画館の入り口を見ると、兄貴と竜が立っている。あれ? なんか出てくんの早くね? しばらく見ていると、歩き出す二人。俺らも慌てて尾行を再開した。 二人はすぐに本屋に入った。きっと竜が行きたいって言ったんだろうな。少しするとまた二人で出てきて、近くのファミレスに入っていった。 ちょうど昼時だし、俺も腹が減ってきた。周さんを見て「俺らも食べません?」と聞くと、「おう」と言うから俺らもこっそり後に続いて店に入った。 離れた席に座り様子を見ると、兄貴が何かの雑誌を開いて竜と話してる。あれは情報誌。次はどこに行こうかって相談してるんだろう。 朝とは違い、あまり竜達を気にすることなく注文したサンドイッチを頬張る周さんを見て、俺は少しホッとした。 しばらくするとメールが入ったらしく、周さんが携帯を見る。 「圭さんから…… 暇してるならうちに来れば? だって。どうする?」 「もちろん行く! 行きます!」 俺らは竜達より先に、会計を済ませてファミレスを出た。

ともだちにシェアしよう!