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初めての場所は…
本屋に入るとすぐに僕はお目当ての場所に向かった。
美術、芸術書のコーナー。陽介さんが後からついてきてくれる。
「欲しいのがあったの?」
優しく陽介さんが聞いてくれるので、僕は大きく頷いた。好きな現代美術の作家たちの作品集……一冊ずつ手に取り悩む。
「もちろん買えるよ。このデート資金でね」
陽介さんにそう言われ、嬉しくなる。陽介さんは僕の本と一緒に何かの雑誌も購入していた。
本屋を出てすぐそこのファミレスで昼食にする。丁度いいタイミングでお昼の時間。注文したものが来るまでの間……と言って陽介さんは先ほど購入した雑誌を広げた。
陽介さんが買ったのはこの地域の情報誌だった。
「これ見てどこに行くか決めよっかなって思って。 実は昨夜ね、竜太君をどこに連れて行こうか考えてたんだけど、やっぱり竜太君が行きたいとこの方がいいかなって思ってさ……どう?」
僕は差し出された雑誌のページをペラペラと捲った。
美術館……水族館。あ、この公園はボートも乗れるのか。ここのイタリアンお洒落な雰囲気。素敵……ここ、イルミネーションが綺麗だ。
「どこも楽しそうでいいですね。行ってみたいな……」
僕はページを差しながら、陽介さんに話した。
「ここからの距離を考えたら、まずは水族館に行って、電車で移動でこの公園も行けるよ。夕飯はこのイタリアンでもいいね」
陽介さんも楽しそうに僕にそう言う。
「………… 」
水族館……周さんと行きたいな。
水族館とか映画館、公園のボートもイルミネーションも、僕は行ったことがない。
周さんと付き合い始めて、僕が初めて焼きもちや嫉妬の感情を経験した時、その時周さんが「これからも俺と一緒に色々初めてを経験してこうな」と優しくそう言ってくれた。
僕は周さんとデートらしい事をあまりしたことがなかった。陽介さんとはやましい事はないけど、やっぱり今回のデートは周さんとしたかったな。
今頃気がついた──
「……た君?……竜太君?」
ぼんやりしてしまって陽介さんに顔の前で手をヒラヒラされた。
「あ、すみません……」
僕は慌てて陽介さんに意識を戻す。
「竜太君さぁ……今周のこと考えてた?」
図星を指されドキッとした。陽介さんを目の前に、周さんの方がよかっただなんて考えてしまって申し訳ない気持ちになった。
「何考えてたのかな? 遠慮しないで言ってごらん」
どうしよう……言ってもいいのかな。にこにこしてジッと僕を見ている陽介さんに、意を決して言ってみた。
「……僕、実は初めてな事ばかりなんです。さっきの映画館も。水族館とか、イルミネーションも、僕行ったことがないんです……陽介さんとお出かけ、楽しかったんですけど、僕……初めてのところは周さんと一緒に経験してみたいんです」
思ったことを正直に陽介さんに話してしまった。僕の話を聞いた陽介さんは笑顔でうんうんと頷くと「そっか」と呟く。
「そうだったんだね。気が付かなくてごめんな。じゃあさ、ご飯食べ終わったら買い物して帰ろっか?」
「はい。ありがとうございます」
僕らはいつのまにか来ていた料理を食べる。
なんだか早く周さんに会いたくなっちゃった。
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