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逆ナン

明らかに修斗さんの様子がちょっとおかしい。 「多分バイトが忙しいんじゃねえの? ま、そんなに気にすんなって……」 僕の質問にはちゃんと答えてくれたけど、やっぱり挙動がおかしく感じた。当たり障りのない答えだし、修斗さんたら目が泳いじゃってたし。でもこれ以上聞いてしまってもしつこいと思われてしまうだろうから、そういう事なんだと僕は納得することにした。 「でも、連絡が取れなくなっちゃうのは……ちょっと寂しいな」 僕がそう呟いたら、修斗さんは優しく頭を撫でてくれた。 「竜太君は素直なんだね。心配しなくて大丈夫だよ……」 何かあるんだろうけど、心配することはない、とそう言ってもらえて少しだけ安心した。 康介が「お腹すいた!」と騒ぐ修斗さんのためにポテトとスナックを注文していた。注文したものが部屋に届くと同時に、知らない女の子の三人組が部屋に入ってきた。 「ねえ、よかったら一緒にどうですか?」 三人とも制服を着てるから、多分僕らと同じ高校生だろう。修斗さんは、にこにこしながら僕らの様子を見ている。康介は「別にいいよ」なんて適当に返事してるし、修斗さんはもう既に自分の隣に女の子一人を座らせていた。なんだよ、ダメと言えない状況じゃん…… 「僕、もうじき帰るけど……いいですよ」 僕は知らない人といきなり仲良くカラオケなんてできないから渋々そう答えると、その子達は飲み物を持ってこちらの部屋に移動して来てしまった。 三人の中でも一番活発そうなショートヘアの女の子が僕の隣に座った。 「ねえ……その制服ってさ、箕曽良高だよね?」 僕の顔を覗き込んでくるのが、ちょっと嫌だ。 「じゃあ、自己紹介しよっか?」 修斗さんがそう言うと、女の子達は一人ずつアキ、ユカリ、ルイ、と名乗った。多分僕には覚えられない…… とりあえず、僕の隣に座った子ははルイだということがわかった。 「箕曽良高の文化祭に出てたD-ASCH ってさ、超いいよね。私達この間の文化祭行ったんだよ」 アキだかユカリだかがそう言うと、修斗さんは自分を指差し「それ俺!」と嬉しそう。 「やっぱり? ベースの人だよね? 似てるなって思ってた! 修斗君だ! 会えてめっちゃ嬉しい!」 修斗さんの隣の子が、そう言いながら修斗さんの腕に抱きついた。その瞬間、修斗さんがグイッとその子を引き離した。 「ごめん! 俺こういうの慣れてないんだ…… いきなりくっ付かれたらドキドキしちゃうじゃん。やめてね」 「えーー? そうなの? モテそうだし遊んでそうなのに意外!」 ……え?慣れてないって? いつもの修斗さんなら、されるがままで抱きつかれるくらい何ともないくせに。ドキドキしちゃうじゃん、とか言って、でも修斗さん目が笑ってなかったよ……寧ろちょっと怖かった。 驚いた。 どうしたんだろう。 ちょっと間が空き、もうひとりが「何か歌ってよ」と甘えた声を出すので、しょうがないなぁと修斗さんが一曲目を歌いだした。 修斗さんの歌の上手さに三人ともウットリして聴いている。でも途中から修斗さんが歌ってる間に康介は隣の子と顔を寄せて耳元で話を始めた。 康介の膝に女の子の手が乗っかってるのを見て、馴れ馴れしい感じがして僕はちょっと不快に思った。 僕はこういうのには慣れてないからやっぱりちょっと気分が悪い。修斗さんが歌い終わったので、僕はトイレに立った。 「ねえ、竜太君は付き合ってる人いるの?」 僕の後に着いてきたルイちゃんが僕の手を取り呼び止める。質問も唐突だし、いきなり手を取られて僕はますますイライラしてしまう。 「ごめんね、僕潔癖症だから触らないでほしい。付き合ってる人もいるよ。すごく大事な人」 少しは相手の事も考えて言った方がいいと思い、潔癖症だと嘘をついた。そんな僕の言葉を信じてくれたのか、ルイちゃんは慌てて手を離してくれた。 「そうだったんだ! ごめんね…… もう触らない。竜太君かっこよかったから、もっと仲良くなりたくてつい……」 初めて会った人にいきなりそんな事言われても僕には無理。ルイちゃんはそれだけ言って部屋に戻ったので、僕は一人でトイレに行った。 その後、僕は大変な事態に遭遇する羽目になるなんて夢にも思っていなかった──

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