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大喧嘩

トイレを済ませた僕は部屋に戻ろうと前を見る。その目に飛び込んできたのは、慌てて部屋から出てくる女の子三人の姿だった。 あれ? 帰るのかな? 三人に向かって歩いているとルイちゃんが僕に気が付きオロオロとした表情を見せた。 「どうしたの? 帰るの?」 僕は初めからこの三人が部屋に来たのが気に食わなかったから、これで帰るならラッキーとばかりに浮かれて声をかけてしまった。 「なんかごめんね……私達、帰っていいかな?」 は? 帰っていいかな? って、別に僕は望んで一緒にいるわけじゃないんだから一々聞かないでさっさと帰れよ……とはおくびにも出さずに「うん、帰るの? 残念だなあ。じゃあね」なんて白々しく笑顔を作る。意外にあっさり帰るんだな、と思いながら彼女達と別れ、僕は部屋に戻った。 ドアを開けると、怒鳴り声と大きな音。僕は目の前の光景に驚き、そのままドアの前で立ち尽くしてしまった。 「はぁあ? バカじゃねーの? どこ見て言ってんだよ!」 「もういい加減にしろっつーの! しつこいんだよ! 」 「うるせえな! 何度でも言ってやる! 俺のどこ見てそんな事言ってんだっつうの! 目ぇ悪いんですかぁ?」 「調子乗ってんじゃねーよ! クソがっ!」 康介と修斗さんが大声で怒鳴りあってる。おまけにお互い手に取ったものを怒りながらあちこちぶん投げてるし、周りを見るとポテトやスナックが散乱している。テーブルの上ではグラスが倒れてびしゃびしゃだし、もう一つのテーブルに至ってはひっくり返って向こうに転がっちゃっている。 僕がいない間に何があったの? いったいどうしたっていうんだよ? 二人とも怖いよ…… 「……っざけんな! 人の気も知らないで!」 そう言って康介はとうとう修斗さんに掴みかかろうとしたから、僕は慌てて修斗さんを庇うようにして前に立った。 「ちょっと! 二人ともどうしちゃったの? やめてよ!」 やっと僕の存在を認識したらしく、二人とも静かになったくれた。息を切らして顔が真っ赤……二人ともかなり怒っているのは一目瞭然だった。 「……ねえどうしたの? 何があったの?」 僕は怒り心頭な康介に話を聞こうとするけど、息を荒げるだけで何も言ってはくれない。修斗さんも真っ赤な顔をしたまま黙ってるだけ。 正直、こんなに興奮してる修斗さん、僕初めて見た。僕は向き直り、修斗さんにも同じように聞いてみる。 「修斗さんまで……何が……」 僕が言い終わる前に、修斗さんは「もういい」と小さく呟いて部屋から出て行ってしまった。 「………… 」 僕はとりあえず汚してしまったテーブルの上をおしぼりで拭き、床に散らばってるスナックなどを綺麗に拾う。テーブルも元の位置に戻し、部屋を見渡して壊してしまったものはないか確認をする。幸いグラスも割れてないし、何も壊れたりはしていなくホッとした。 その間、康介は黙って立ったまま。 店員に言って新しいおしぼりをもらい、僕はソファーに腰かけた。黙って突っ立っていた康介もドスンと僕の前に座った。 何も言ってくれなきゃわからない。黙ったままの康介を睨むとやっと康介が口を開いた。 「……俺ってさ、そんなにイライラする顔してるかな? そんなにだらしない顔してるかな?」 康介は自分の膝の間に頭を埋めるようにして項垂れたまま、床に向かってボソボソと喋る。ちょっと言っている意味がわからない…… イライラする顔? だらしない顔? 「そんな事無いよ? そんなわけないじゃん。何でそんな事言うの?」 さっきまでの怒り心頭な康介とは打って変わり、元気のない小さな声。下を向いてごにょごにょ喋るから、なかなか聞き取るのが困難だった。 康介、肩が震えてる…… 顔は見えないけどきっと泣いてる。 僕は康介の隣に座り、肩を優しくさすってやった。

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