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傷心

しばらくの間、僕と康介は黙ってソファに腰掛けていた。康介は相変わらず下を向いたまま。 どうしたもんかな…… 確かに最近の修斗さんは康介に妙に執着していておかしな感じだったし、さすがの康介もイラついていたのは知っている。でもこんな大喧嘩するほどの事ではなかったはず。 「康介、大丈夫? 修斗さんと何かあったの? 最近の修斗さん、ちょっと変だったよね……」 黙ったままの康介に聞いてみる。僕の言葉にゆっくりと顔を上げこちらを向いた康介の目はやっぱり少し赤くなっていた。 「……先週くらいからかな、修斗さんがうちに遊びに来て俺の部屋で漫画読んでったり、俺が部活で助っ人してるのを見学しにきたり、下校する時に俺の事を門で待っててくれたり……」 あれ? 修斗さん、康介の事が好きなのかな? 「なんかさ、他愛ない事でもちょいちょい連絡してくるしさ、構って貰えて嬉しいじゃん?」 そうだよね。よくわかる。僕も周さんが構ってくれると嬉しい。 あ……周さん、今 何してるんだろう。周さんと会えなくて気になってたのにこの騒動ですっかり頭から消えていた。 「でもさ、そのうち知らない奴らからお前何者? とか、修斗の何なの? とか、修斗にちょっかい出すな! とか……待ち伏せされて脅されたり、嫌がらせが始まって。それを修斗さんに言ったってヘラヘラどうでもいい感じだしさ。だからだんだん面倒になってきちゃって……」 そっか。それで康介、修斗さん避けるようになったんだ。 「あの人さ、散々人にちょっかい出してくるくせに俺の事なんてどうでもいいんだよ……自分の都合ばっか」 康介、また俯いちゃった…… 康介の話を聞いてると修斗さんの気まぐれに振り回されちゃってる感じなのかな。でも待ち伏せとか嫌がらせとか、たまったもんじゃないよね。 「ねぇ、康介は修斗さんの事好きなの?」 何気なくそんな風に聞いてみると、康介はばっと顔を上げた。 「は? なんでだよ! そんなんじゃねえって! 憧れの先輩として好きなだけで恋愛感情は無いから!」 「………… 」 僕はただ「好きなの?」って聞いただけなのに…… 喧嘩したからって嫌いになっちゃったわけじゃないよね? という意味で聞きたかっただけなのに。 そんな慌てなくたって……顔真っ赤だし。 わかりやすいね、康介は。 また黙り込んでしまった康介は、赤い顔をしながら何かを考えてるみたいだった。 「康介? どうしたの?」 「俺、修斗さんの事……好きなのかな? わかんないや。ムカつくしイライラするし……」 僕は思わず声に出して笑ってしまった。 康介ったら! 「好きかどうかなんて康介にしかわかんないじゃん!」 僕がそう言うと、口を噤んでまた下を向いてしまう。全く…… 話が全然進まないや。 「でさ、さっきはどうしたの? 喧嘩の原因は何? 僕には言いにくいこと?」 いい加減黙ったまんまの康介に痺れを切らした僕は、もう話す気になったかな? と思って聞いてみると、やっと康介は話し始めた。 「さっきさ、アキちゃんと話してた時、なんだか知らないけど急に修斗さんが怒り出してさ、俺におしぼり投げてきやがったんだよ。それも本気で! この距離でだよ? 豪速球なおしぼりが俺のデコに当たってさ、めっちゃ痛えの! 酷くね?」 「……おしぼり?」 確かにこの距離で本気で投げられたら怖いし痛い。でもなんで修斗さんは怒ったんだろう…… 「でさ、何すんだよ! って俺怒鳴ったら、俺の顔がイラつくって。だらしない顔ムカつくって。見てらんねって……意味わかんねえし……」 よっぽどショックだったんだろうな。思い出したのか、康介は言いながら目に涙をためて堪えている。 「そっか……酷いね。修斗さん。でもどうしたんだろうね」 僕は康介のことを全力で慰めた。こんなに落ち込んでる康介、僕は見たことがない。 でも修斗さんにもちゃんと話を聞いてみないと。康介の話だけだとちょっとよくわからないや……

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