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やっと会えた…

相変わらず周さんとは連絡がつかない。昨日の康介と修斗さんの事も話をしたいのに、電話をしてもちっとも出ないし、メールだって一方通行…… 本当に周さん、どうしちゃったんだろう。 康介の事が気になっているから今は何とか気が紛れているけど、康介の事がなかったら僕はきっと今頃落ち込んで一人モヤモヤしているんだろうな…… 学校にはちゃんと来てるのかな? 休んでるのかな? なんで連絡もしてくれないのだろう。 休み時間、屋上に探しに行ってみるもやっぱり見当たらない。旧部室を覗いてみても、人の気配がない。なら保健室はどうだろう? 「あれ? 竜太くん、どうしたの?」 椅子に座ったままの高坂先生が振り返り僕に声をかけてくれる。ベッドの方を見ても、全部カーテンが開いていて誰もいないのがわかる。ここにもいないんだ…… 「……どうもしないです。失礼しました」 僕は保健室の中をざっと見渡してから、高坂先生にそう言って教室へ帰った。 次の休み時間は意を決して二年生のフロアに行ってみた。どうせ昼休みに待っていたって周さんは屋上には来ないと思ったから。教室に行けば、今日来ているのか休んでるのかだってわかるはず。そう思って僕は一人で周さんの教室へ向かった。 周さん、いるといいな…… 廊下を歩いてると、いきなり声をかけられる。 「あれ? 竜太君じゃん! 何しに来たの?」 「ほんとだ、渡瀬君どうしたの?」 数人の先輩達に囲まれてしまった。体育祭の件があって僕のことを知っている先輩も多いのだと思う。ちょっとドキドキしたけど、そんな先輩達を僕は利用させてもらった。 「……橘先輩を探してるんです。今日は学校に来ていましたか?」 僕がそう言うと、一人の先輩が答えてくれた。 「周なら朝から教室にいるよ。連れてってあげようか?」 よかった! 学校に来てた! 僕はその先輩にお礼を言って、急いで周さんのクラスに走った。 廊下から教室の中を覗くと、一番奥の窓際の席で突っ伏して寝ている周さんを発見した。 周さんだ! 久しぶりに見た…… でも突っ伏して寝ているから、周さんは僕のことに気付いてくれない。周りを見ても修斗さんはいなさそうだし、どうしよう。廊下で教室を覗きながら悩んでいると、教室にいる先輩達が僕に気付いてザワザワと話し始めてしまった。 あ……ちょっと嫌な感じ。周さんは僕に気がついてくれなかったけど、久しぶりに姿を見られたからもういいや。早く自分の教室に戻ろう……そう思って帰ろうとしたけど手遅れだった。 「ねーねー! どうしたの? 一年の渡瀬君だよね?」 「やっぱり可愛いね! 俺ともデートしてよ」 周さんの教室で何人かが僕を揶揄うように騒ぎ出す。困ったな……と思ったら、誰かに腕を掴まれてしまった。 「あ、あの……すみませんっ! 僕もう戻ります。離してください」 「いいじゃーん! もうちょっと お喋りしよ………」 僕の腕を掴んで離さなかった先輩が、言い終わらないうちに後ろに倒れた。何かと思い振り返ると、怖い顔をした周さんが立っていた。 「っってーーー! クソっ痛えな、橘! 何すんだよ!」 突然現れた周さんが、僕の腕を掴まえてた先輩を殴ってしまったらしく、その人は頬を擦りながら文句を言ってる。 「テメェが竜太を掴んでるからだろうが! 何触ってんだよ! 離れろよ!」 これだけのことでこんなに怒らなくてもいいのに……寝起きだから機嫌が悪いの? 久し振りに近くで見られた周さんの顔は凄く怖い表情だった。 「あ? 別に触ったっていいだろうが!」 「おいっ! お前、周相手にやめとけって!」 僕の目の前で周さんを含む数人の先輩達が今にも大喧嘩しそうな雰囲気で睨み合っている。 どうしよう……早く帰ってればよかった。 「竜太も何しに来たんだよ! 早く教室に帰れ!」 僕がアタフタしていたら思いもよらない言葉が飛んできてショックを受ける。何しに来たって、そんなの周さんに会いに来たに決まってるじゃん。それ以外何があるんだよ。連絡も全然くれなかったのは誰? 僕が来ちゃいけなかったの? なんだよ! やっと会えたと思ったのに……酷いよ周さん。 「……っごめんなさい!」 ショックで言い返すことも出来ず、僕はそれだけ言って駆け足で教室に戻った。 周さんの態度がショックで、教室に戻ろうと思ったけど涙が出そうになってくる。 せっかく会えたのに。なんだよ……酷いよ。 結局僕は教室には行かずに保健室へ向かった。 「あれ? また竜太くんだ。やっぱりどうかしたの?」 不思議そうに高坂先生が僕を見て聞いてくる。 「………… 」 なんて言ったらいいのか、少し考えてしまった。返事に困っていると、高坂先生は「休んでく?」と優しく言ってくれたので、黙って頷きベッドに潜る。先生はしばらくは何も言わずにそっとしておいてくれた。 周さんと会えなくなってから何日過ぎたのだろう。僕から何度も連絡をしてたのに返事すらしてくれなかったのは周さんだよ? それなのに何であんな風に言われなきゃいけないんだよ…… 考えれば考えるほど辛くなってくる。なにか気に触ることでもしちゃったかな? 全然心当たりもないし、どうしたらいいのかわからなかった。 「橘と何かあったの?…そんな泣きそうな顔しちゃってさ。喧嘩でもした?」 カーテンの向こうから高坂先生が小声で僕にそう聞いた。 喧嘩……ああ、そういえば康介のことも修斗さんに聞きたかったんだっけ。今度は周さんの事で頭がいっぱいになってしまって康介の事を忘れてた…… 「竜太くん? 大丈夫?」 返事がないからか、心配そうにまた高坂先生が声をかける。 「あ! ごめんなさい。大丈夫です。喧嘩じゃありませんから……」 別に僕と周さんは喧嘩をしたわけじゃない。しばらく会えなくなって、連絡もしてくれなくなり姿も見えず…… 寂しくなって探して会いに行ったら、少し怒った周さんに追い返されただけだ…… 理由がはっきりわかっている「喧嘩」の方がよっぽどいいや。 高坂先生はそれ以上何かを聞いてくることはなかったので、僕は布団をかぶり瞼を閉じた。

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