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修斗の変化
周の事を気にしないように竜太君を構ってやれって……いくら俺が構ってやったところで竜太君は周の事が大好きなんだから無理な話なんだよな。
今日も竜太君と一緒に屋上でお昼を食べる。そこには勿論周の姿はない。そして竜太君と一緒にいればもれなく康介君も付いてくる……
康介君は少し揶揄うと顔を赤くして困る姿が面白いから、ついつい竜太君以上に構ってしまう。最初は周に言われて竜太君を気にかけていたはずなんだけど、いつの間にか俺は康介君を構うのが日課になっていた。
恋愛感情は別として、きっと康介君は俺の事好きだろう。
慕ってくれるのは嬉しいこと。そして俺が先輩だからか、ちょっとした頼みなら文句を言いつつ聞いてくれる。今の俺にとって康介君と遊んでいるのが一番に楽しかった。
「修斗、今日二人でボウリング行かね? 夕飯も奢るよ」
ついこの間デートした三年生に声をかけられるも気分が乗らずに断ってしまった。
……変なの。
今まで遊びやデートのお誘いに気分が乗らないからと言って断るなんてした事がなかった。気分が乗らなくても遊びに行っちゃえば大抵楽しくやれていた。でも今の俺はそこまでして遊びたいとは思えなくて、何度も同じ理由で誘いを断るようになっていた。「何でだよ」としつこい奴には後輩と遊ぶから無理だと正直に話した。そんなことを続けていたら康介君に抗議されてしまった。
俺が断ったせいでそいつらが康介君に文句を言ってくるらしい。
なんだよそれ。文句あるなら俺に直接言えばいいのに……
「まあまあ、そう怒るなって。そのうちほとぼり冷めんだろ?」
俺は康介君にそう言って宥める。脅されたって言っても竜太君と違って康介君なら上手くいなす事が出来るだろう。大丈夫だと思って俺は軽く答えていた。
ある日の放課後、帰ろうと外に出てなんとなしにグラウンドを見るとサッカー部が練習をしていた。
あれ……?康介君がいる。
そっか、そういやあいつ部活入らないでたまに助っ人で色んな運動部に参加してるって言ってたっけ。今日は試合じゃなくて普通に練習に参加してんのか……
上手いな。
体育祭の時も走ってる姿を見て思った。体を動かしてる時の康介君、かっこいいよね。どうせ暇だし少し見ていくか……そう思って俺はグラウンドの端で練習風景を眺めていた。
部活が終わり、着替えに戻ろうとする康介君に俺は声をかける。
「よっ! お疲れ様。康介君かっこよかったよ」
素直にそう言うと、康介君は顔を真っ赤にして慌てていた。
「なにそれ康介君、ちょっと照れすぎだって! 可愛いね!」
「照れてなんかいねえし! 修斗さん、こんな所で何やってんすか?」
そんな顔してるくせに照れてないって……無理だろその嘘。やっぱり面白いし可愛い奴。
「何ってかっこいい康介君を見てたんだよ。一緒に帰ろう」
面白くてついつい揶揄いたくなってくる。康介君は赤い顔が治る事なく、プリプリと怒ったまま「着替えてくるから待ってて下さい!」と校舎へ入っていった。
俺は康介君が出てくるのを待った。
着替えて出てくるだけだから、そんなに時間もかからないと思ったんだけど、全然戻ってくる様子がない。
康介君、遅くね?
少し心配になり、校舎に行こうと進むと玄関横に入っていく人影が見えた。
あ、康介君……と誰だ?
気になった俺は、二人の後をついて行った。待ちくたびれたし適当言ってさっさと帰ろうと思ったんだ。それなのに盗み聞きするように聞こえてしまったのは震える声で気持ちをぶつける告白の言葉だった。
「……好きなんです。康介君……もしよかったら、僕と……付き合ってください!」
マジか……
「ありがとう……ごめんね。ちゃんと返事したいから、時間ちょうだい。うん、ちゃんと考える。真剣に考えるから……」
「ありがとう! 返事、待ってる!」
康介君に告白した奴は、なんだか嬉しそうに走って行った。
………?
なんで?
なんで康介君、すぐに断らないんだろう? そんなの真剣に考えることでもないだろ?
あれ? 何だろう、なんかこの辺キリキリする……むちゃくちゃイライラするし。
俺は自分の胸のあたりをぐりぐりしながら、イラつきながら一人で家に帰った。
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