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何やってんだ俺は

次の日、学校に着くと少し先に康介君の姿を見つけた。 あ、やべ…… 昨日一緒に帰ろうなんて誘っときながら先に帰ってきちゃった事を思い出した。後で謝りに行こう。 休み時間に俺は康介君に会いに一年のフロアに出向いた。廊下を歩いているとすぐにD-ASCHのファンだという奴らに捕まってしまい、なかなか康介君のクラスまで辿り着けない。 「ごめんね。俺、今日鷲尾君に用事があって……時間ないからさ、ちょっと通して」 そんな風に言ってなんとか康介君の教室まで来た。 教室を覗くと黙々と読書をしている竜太君の隣の席で突っ伏して眠る康介君。俺が目の前に来ても読書に夢中なのか、竜太君は全然気がつかなかった。康介君に至っては突っ伏して寝たままいくら突っついたって起きやしない。どんだけ爆睡してるんだか…… あ、でも起きてるのかもしれねえな。最近俺のこと疎ましく思ってたみたいだったし。もしそうならちょっと寂しい。 しょうがないから俺は読書に夢中の竜太君の前に座る。相変わらず竜太君は姿勢正しく読書に夢中。でも流石に目の前でガン見されたら気がつくよね。顔を上げた竜太君が俺に気がついてギョッとしていた。素で驚いている竜太君が可愛い。 「ねえねえ、今日さ、三人で遊び行かない? カラオケでも行こうよ」 康介君は起きないし、昨日の事謝るのにやっぱり自分で言いたいし。そう思って俺はお誘いした。竜太君に周のことも少し話してあげたいしね。周には内緒だと言われていたけど流石に無視し続けるのは良くないし可哀想だ。 学校が終わりカラオケに向かう道中でも到着してからでも、いくらでも俺は康介君に昨日の事を謝るタイミングがあったはずなのに……「先帰っちゃってごめんな」とそう言うだけでいいのに、結局俺は言い出せずにいた。 大したことないし、康介君からも何も言われないし、別にいいかな? なんて自分に都合のいいようにも考えていた。 なんかでも……こういうのは俺らしくない。 カラオケを楽しんでいると女三人組が逆ナンしてきた。せっかく楽しくやってんのに邪魔だな、と内心思う。 ノリが良くて楽しいタイプの女の子。 今までの俺なら、誘われればお持ち帰りしてやってもいいよってタイプだった。 ……でもやっぱり全然無理。 馴れ馴れしくされて益々イライラが倍増してしまった。歌えと言われて歌い始めると、目の前の女が康介君の膝に手を置いて話し込んでいるのが目に入った。 康介君、楽しそう…… 歌いながらイライラを押さえ込む。なんとか歌い終わり、隣に座った女が嬉しそうに俺にくっ付いてくる。上手いだのカッコいいだの言っていたけど全然頭に入ってこない。カラオケは好きな方だったのに今日はちっとも楽しくなかった。 手持ち無沙汰で何となく目の前のおしぼりを弄っていると、康介君の隣の女が康介君と内緒話を始めた。 ……顔が近い。見ていてイラッとする。 そしてその女が康介君の頬にキスをした……ように見えたんだ。 その後は、自分でも訳がわからないんだけど、気がついたら康介君に手に持っていたおしぼりを全力で投げつけていた。 そして大喧嘩。 勢いで思ってもない言葉がボンボンと出てくる。売り言葉に買い言葉ってやつ。康介君だってこんなの訳わかんねえよな。康介君と怒鳴り合いながら「あぁこれって俺のヤキモチなのかもしれない」とやっと気付いた。 ……何やってんだろうな、俺。康介君のこと傷付けちゃったな。 いつの間にトイレから戻った竜太君が慌てて俺らの間に入って宥めてくれてる。 みっともない。 今日ほど自分が嫌だと思ったことはなかった。

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