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喜びからの戸惑い
僕は保健室を出て教室に戻る。廊下を歩いているとメールの着信に気がついた。
あれ? 見ると周さんからだった。え? 嘘! 嬉しくて慌てて僕は画面を開く。そこには先ほど僕が送ったメッセージに対しての返信があった。
『あいつなら大丈夫だろ』
たったこれだけの短い文だけど、今の僕にはこの返事が舞い上がるくらい嬉しかった。
僕は単純だ。携帯をポケットにしまい絶好調な気分で教室に入った。
席に着くと志音と目が合う。
「竜太君どうしたの? ご機嫌だね。にこにこしちゃって珍しい」
「うん、ちょっと嬉しいことがあってね…… 」
僕がそう言うと、志音は興味を持ったらしく「何々?」としつこく聞いてきた。しょうがないから周さんからのメールの話をするとポカンとする。
「へ?……それだけ? どんだけ周さんの事好きなの? 竜太君たら…… 」
もっと面白い話が聞けるかと思ったと言って、志音は呆れて溜息を吐いた。なんだよ失礼だな。
「あ、そういえばさ、今日は康介君休みなの? 珍しくない?」
思い出したかのように志音が聞いてくる。
確かに康介が学校を休むのは珍しいよね。絶対修斗さんのことで休んでるんだろうけど、志音は事情を知らないから「そうだね…」とだけ僕は言った。
帰ったら康介の家に寄ってみよう……
放課後、借りていた本を図書室へ返しに行く。そして次は何を借りようかと本棚を眺めていると誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこに立っていたのは……名前なんだっけ?
「えっと…… 」
顔は見たことあるんだけど、確か隣のクラスの……
「小峰だよ。渡瀬君だよね」
そうだ、小峰君だった。
「そう、小峰君。なに?」
小峰君は小柄で少し華奢な体格。髪の毛も長めだから女の子に見えなくもない。その可愛らしい風貌で結構モテるって聞いたことがある。何も接点のないその小峰君が、僕なんかに何の用だろう。
「今日は康介君はお休みなの?」
あれ? 康介と知り合いだったんだ……
「うん、そうみたい。珍しいよね康介が学校休むなんて」
にこにこしていた小峰君が少し俯いた。どうしたのかな? と、少し小峰君を見つめてしまう。すぐに顔を上げると小峰君は上目遣いでボソッと話した。
「渡瀬君はさ、康介君とは幼馴染みなんだよね? 康介君の事なら何でも知ってるって感じ?」
「………… 」
幼馴染みだからといって何でも知ってるわけがない……
「まさか、そんな事ないよ。……なんで?」
小峰君は俯いたままクスッと笑う。
「だよね。うん……僕はさ、渡瀬君は幼馴染みだから許せるんだよ。でも何なの? あのビッチ先輩……康介君に付きまとって鬱陶しい。 許せないんだよね……」
「え? 今 何て……」
今、可愛い顔して凄いこと言わなかった? この人。
「康介君が学校来たら、お返事早く聞かせてねって伝えておいてね」
そう言って小峰君は僕の肩をポンと叩き、図書室から出て行った。
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