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油断

頭がズキズキする。なんだかわからないこの状況を冷静に考えた。 確か康介君に呼ばれて視聴覚室に向かったはずだ。なんで後ろ手に縛られてその視聴覚室の準備室で転がってんだ? 俺は。 目が覚めた瞬間、嵌められたんだとわかった。誰かに口を塞がれた。そうか、俺は気を失ったのか。きっといつもの俺なら何かおかしいとか気付けたはず…… 油断してしまった。と言うより康介君のことで頭がいっぱいで周りが見えてなかったんだな。 俺は体を起こし壁に寄りかかる。まわりを確認してみるも、誰もいない。最近俺の周りをチョロチョロしていた奴らだろうか? とにかくこの状況はどうしたものか、と俺は腕を捻ってみたり体を揺らしてみたけど動くことは無理だとわかっただけだった。 「ったく、キツく縛りやがって……」 入り口に人の気配を感じ顔を上げる。俺が目を覚ますのを待ってたんだろう、小峰を筆頭に数人がニヤケながら入って来た。 「……先輩、ちょっと拍子抜けですよ。呆気なさすぎ!つまんない」 小峰の周りの奴らも皆んな見たことのある顔だった。知った顔でも、どうにもこうにも動けないんじゃお手上げだ。 「修斗、相変わらず余裕な顔してんのな。ちょっとは危機感持ったら?」 そう言うこいつはデートの時俺にキスしようとしてきた奴だ。確か三年。 そうだ、思い出した……ここにいる奴ら全員、俺とデートして強引に迫って来た奴らばっかだ。無理矢理やろうとしてきて俺が返り討ちにしてきた奴ら。 そういうことか。参ったな…… 「先輩、ここにいる人たちね、先輩にお相手してもらいたいんだって。谷中先輩ならお手の物だよね」 「………… 」 「それとさ、だめだよ康介君は。手を出さないでよ。彼すごい綺麗なんだよ? 先輩みたいに汚い奴が近づいちゃダメなんだ。これ以上汚さないでくれる?」 はぁ? 康介君は天使かなにかか? 妖精さんか? アホくさ…… 「小峰君、何言っちゃってんの? 康介君だって女とやる事ヤってるよ? 何が綺麗だ、だよ笑っちゃう」 俺がそう言うと、小峰は少しムッとした表情を見せムキになった。 「そんなの知ってるし! でも康介君、男は知らないでしょ? だから汚いビッチ先輩がちょっかい出しちゃダメなんだよ。同じこと言わせんなよ先輩」 ビッチって俺のことかよ。自分棚に上げて汚いだのビッチだの失礼だなこいつ…… 「小峰君? 俺はね、当たり前だけどちゃんとお付き合いした人じゃないと体は許さないよ。キスだってゴメンだ。誰にでもケツ開いちゃう君とは違うから勘違いしないでくれるかな?」 思わず挑発するような事を言ってしまった。あーあ、小峰真っ赤になって怒っちゃった。 やっぱり俺、ピンチかな?

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