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俺のせいだなんて言わないで
今日は早く部活が終わったから康介と一緒に帰れるかな? 僕はそんな事を思いながら美術室から出た。
廊下を歩いていると、渡り廊下の向こうに周さんの姿が見えた。その後に続く康介の姿も。周さんは何か大きなものを抱えている。深刻な顔の二人に僕は何事かと胸が騒ついた。
周さんが抱えていた大きなものが人に見えた。そしてまさかとは思うけど、髪色から修斗さんに見えなくもなかった。
「まさかね……」
僕は急いで二人の後を追う。向こうに行ったって事はきっと保健室だ。
「康介?」
保健室に入ると今にも泣きそうな康介が落ち着きなくうろうろしていた。僕の姿にも全く気がつかない。
「康介! 康介、大丈夫? どうしたの?」
僕が康介の肩を揺すって話しかけると、やっと僕のことに気がついてくれた。
「竜! 修斗さんが……」
一ヶ所カーテンが閉まっているベッドがある。康介が言うにはそのベッドに意識のない修斗さんがいて、高坂先生が診てくれているらしい。
「修斗さん……襲われて……」
襲われたって……
「え? 修斗さん、強いんじゃなかったの? 何でこんな事に…… 」
僕の言葉に康介が一瞬びくっと怯えたような顔をした。
「……俺のせいだ。修斗さんが油断したの、俺のせいなんだ! 俺が呼んでるって騙されて……それでやられたんだ! 」
「………… 」
僕は自分の事を思い出した。
僕も周さんと会いたいなって思っていた時に、周さんの名前を出されてまんまと騙されたんだ。
でも、周さんが「自分のせいだ」と言うのが凄く辛かった。「ごめん」と謝られるのが辛かった。
誰のせいでもないのに……寧ろ自分の不注意なのに。
そんな風に言わないで。修斗さんだって絶対康介のせいだなんて思ってないから。
「康介! 修斗さんは康介のせいだなんて絶対思ってない! 大丈夫だから……ね? お願いだからそんな悲しいこと言わないで。自分を責めないで……」
どうしても康介にわかってもらいたかった。
落ち着かない康介を宥めていると、カーテンの奥から高坂先生の呼ぶ声が聞こえた。
「康介くんいる? ちょっとそこのハサミとおしぼり取ってくれるかな?」
慌てて康介が机をガタガタ探し、カーテンの中へ入っていった。僕も恐る恐る中を覗いてみると、眠ったようにも見える修斗さんがお腹のとこだけ大判のタオルを掛けられた状態で横たわっている。
両足首に拘束具……
高坂先生がハサミを使ってそれを外そうとしていた。鎖の部分は無理だけどバンド部分は革製だからハサミで何とか切り離すことができた。それを高坂先生は怒ったようにゴミ箱へ投げ捨てた。
「あ、竜太くんも来てたんだね。修斗くん、もうじき目を覚ますと思うから安心して」
優しく先生はそう言うと、僕に軽く手を振る。
あ……そうか。
「康介、修斗さんみてるよね? 僕は先に帰るよ。あとで連絡して……」
修斗さんが目を覚ました時に、康介どころか僕までいたらきっと嫌かもしれない。自分のこんな姿、見せたくないよね……そう思って僕は康介を残して先に帰った。
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