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恋?独占欲?

「康介君さ、俺んちで一緒に夕飯しない? 今日俺一人だから付き合ってよ。あ! そうだ!今日のお礼に奢らせて 」 修斗さんはひとりでそう言いながら、コンビニへ入って行ってしまった。俺の返事なんか御構い無しだ…… ちょっと強引。でもちっとも嫌じゃなかった。寧ろ俺ももう少し一緒にいたかったからちょうどいい。 「康介君はお弁当なににする? 好きなの選んで。俺が払うから」 楽しそうにそう言うから、俺はいつものように食べたいものを手に取った。 「え? ちょっと待って……それ俺んじゃないよね? 康介君、弁当二個食うの?」 俺の手には幕の内とパスタ。それを無言で修斗さんの持ってるカゴに入れようとした。俺がよく食う弁当。サラダも欲しいところだけど、今日は修斗さんの奢りだっていうからちょっと遠慮しておいた。 「ウケる! 食いしん坊なのはわかったから、とりあえず少しは遠慮しようね。はい、今日は一個ね」 「………… 」 修斗さんにパスタを突き返された。好きなの何でも! って言ったじゃんか…… それに遠慮してたのに。でもまあ何でもいいや。修斗さんが楽しそうだから俺は嬉しい。 会計を済ませ、お互い弁当を手に持ち並んで歩く。コンビニから五分と経たずに修斗さんの家に着いた。修斗さんの家はマンションだった。鞄から鍵を取り、カチャリと開ける。電気が消えてて中は真っ暗。 「誰もいないんですか?」 「親は遅くまで仕事で留守。姉貴も仕事。夜の仕事だから……もう出たかな?」 修斗さんはそう言いながら、キッチンに入り冷蔵庫からジュースを取り出す。 「飲むでしょ? あ、俺の部屋そっちね」 案内された修斗さんの部屋。すっきりと片付けられていて綺麗だ。 俺の部屋とは大違い。 「ちょっとシャワーだけ先に浴びさせてね」 修斗さんはそう言っておもむろに制服を脱ぎながら風呂場の方へ行ってしまった。 その時 垣間見た、白い肌にいくつも浮かんでる痣が俺の胸をぎゅっとさせた。さっき起きたことが嘘みたいに修斗さんはいつも通り……でも体に残るあの痕を見て現実だったと突きつけられた。 ローテーブルに弁当を置き、ぼんやりとまわりを眺める。 今日は疲れたな…… しばらくすると濡れ髪をタオルでゴシゴシしながらスウェットに着替えた修斗さんが戻ってきた。 「ごめんな、待たせた。先食べててもよかったのに……食おっか」 ローテーブルの前に座り、二人で「いただきます」をして食べ始める。 「………… 」 修斗さん食べないのかな? さっきから焼きそばを箸で突っついてるだけで口に運んでない。 ああ……食欲ないか。 そうだよな。無理に食べることないよ。 「修斗さん、大丈夫? 腹減ってないなら無理して食べることねえっすよ……」 「………… 」 どうしたんだろう? 俺は黙り込んでしまった修斗さんが少し心配になった。 「……康介君、そっち行っていい?」 そう言いながら修斗さんは立ち上がり、俺の横に座った。 ? いきなり俺の胸にぎゅっと顔を埋めて抱きつく修斗さんに、俺はドキっとする。ふわっとシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。思わずその髪に顔を埋めたくなった。 「……どうしたんですか? 修斗さん?」 修斗さんでも不安だったり怖いと思ったり、そういうこともそりゃあるんだろう…… あんなことがあったんだ。しょうがないよね。俺なんかで落ち着けるっていうなら、喜んでこの身を差し出したいと思った。 「ちょっとでいいから、ぎゅっとして……」 上目遣いで俺を見る修斗さんに、また俺はドキッとさせられる。 もしかしてまた揶揄われてるのかも、と思った俺は修斗さんから離れようと慌てて体を避けた。 「また! 俺の事からかってるん…… 」 「からかってなんかないよ。俺がこうしたいんだ…… ごめんね。今日はなんだか…… 」 あ……ごめんなさい。 泣きそうに見えた修斗さんの顔を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになる。俺は心の中で「ごめん」と呟き、また修斗さんを抱きしめた。 「康介君に情けない所見られちゃって……俺 結構凹んでんだよ」 え? そこ? レイプされた事よりそっちなの? 怖いとかショックとか、そういうんじゃないの? 情けないとか言って……全く! 「修斗さん、何言ってんの? 情けなくなんかないですよ! いつもかっこいいです。早く元気出してください……嫌なことは忘れて……」 なんとなく背中を撫でながら俺がそう言うと修斗さんは嬉しそうな顔をした。俺、この人のこの表情大好きだ。 「康介君、俺の事大好きなんだな! 」 ハハッと笑い揶揄うように修斗さんは言うけど、ほんとそれ。俺、修斗さんのこと大好きなんだよ。 それにしてもなんだろうな、このシチュエーション。男が二人で座って抱き合って……でもさ、俺気付いてたけど全然嫌じゃないんだよな。 ドキドキしてるしさ、修斗さんのこんな可愛い姿を見られて嬉しいって思ってるし、ずっとこうしてたいな、なんて思っちゃうし…… ……好き? 友達として? 先輩として? いや、さっき修斗さんが襲われてるところを見て俺の中で突如湧き出てきた感情…… 誰にも触れさせたくないって思った。 ふざけんな!って思った。 俺のに触るな!……とも思った。 ……恋?なのかな。 認めてしまうのが怖かった。でもこんな感情になってしまったのは事実なんだ。修斗さんはいつも俺のこと揶揄うように言うけど、俺はきっと本気になってしまってるんだ…… ここまで気が付いてしまったら、もう「どうしよう」としか考えられない。 ふと視線を下ろしたその先の修斗さんの鎖骨あたりに見えた痕。遠巻きに見るのより、目の前で見てしまう方が俄然込み上げるものがある。 俺は瞬間、本当に無意識に その修斗さんに付けられた痕に吸い付いていた。 「あ? ……康介く……ん?……ん、あ……」 体をビクッと硬直させ戸惑う修斗さんにも構うことなく、俺は夢中でその首筋に何度もキスを落としていた。 俺ので上書き……そんな事を思いながら、抱きしめる腕にも力が入った。 「……ちょっと! ちょいちょい! 康介君ってば!離せって……」 修斗さんの声でハッと我に帰る。 え? 俺、今何して……嘘だろ? 俺、こないだの周さんと同じ事してた? 独占欲丸出しで竜にキスマーク付けまくってた周さん。 俺も同じじゃねえか! 恥ずかしい! 付き合ってもいないのに、なんて事を! 「康介君、脅かさないでよ。もう、びっくりしたなぁ」 修斗さんは笑ってる。 でもダメだ俺、修斗さんの顔見れない! あんな事があったのに、俺ってばデリカシーもクソもねえ、最低なことした! 「…っ、ごめんなさい! 弁当ご馳走さまでした!」 それだけ言って、俺は逃げるように家に帰った。

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