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公園の二人
水族館を出た僕らは近くの公園を散歩する。
今日はお天気もよくて気持ちがいい──
少し歩いているとピンク色の車、移動式の店を見つけた。あれも雑誌で見たことがある。僕の記憶が正しければ、あれは今人気のドーナツ屋さんだ。
「周さん! あれドーナツ屋さんかな?」
近付いて行くと甘い匂いが鼻をくすぐった。
「竜太、食べたいんだろ? いいよ、腹減ったし。それにもうじき昼だしな」
僕に気を遣ってそう言ってくれるけど、周さんは本当は甘い物は苦手だよね。それにお昼は僕はドーナツでも大丈夫だけど、周さんはドーナツだけでお腹が満足出来るとは到底思えなかった。
「お昼ご飯はどこか別のところに行きましょ? 喉が乾いたからここでは飲み物だけで……」
そう言って二人で飲み物を買い、そこの店から少し離れたところの公園のベンチに腰かけた。
店の前に設置されてるいくつかの席は、女の子の客ばかりだったから何となく座れなかった。
「女ってこういうの好きだよな。店員がイケメンなのも理由の一つか……ほら、見てみ? だんだん混んできた。うわ……ちょっと遅かったら飲み物も買えなかったな」
「店員さん、イケメンでしたっけ?」
僕は並んでいる見本のドーナツばかりに気を取られていたから店員までよく見ていなかった。
「あれ? 竜太、それ焼きもち? 俺が好きなのは竜太だよ」
いや、そう言う意味じゃないんだけど……でも周さん嬉しそうだからまあいっか。周さんは僕の頭に手を置き優しく撫でた。
「………… 」
僕の頭に手を置いたまま、なぜか固まる周さん。
「周さん?」
周さんを見ると、ぽかんと店の方を見ている。どうしたんだろう? と、僕もそちらに目を向けた。
「竜太、……あれ修斗と康介だよな?」
「……はい。そうみたいですね」
康介と修斗さんはドーナツ屋に向かって二人で何かを言い争いながら歩いている。……というか、いつものように康介一人がぷんぷんと怒っている感じにも見える。二人は僕らに気付かないまま、ドーナツ屋の前まで歩いて来た。そして近くに来てわかったけど、やっぱり何か揉めているようだった。
「……もう帰りますって! 修斗さんは他の人と遊べばいいじゃないですか! ……ドーナツもいりませんってば!」
明らかに怒っている康介とは対照的に、修斗さんはケタケタと笑っている。
「いいじゃん、何でそんなに俺のこと避けるの? 好きなくせに 」
怒った康介、今度は顔を赤くして困り顔。
「ほらほら、ね? ドーナツ食べようよ。康介君ドーナツも好きでしょ?」
修斗さんは怒った康介にお構いなしにグイグイと纏わり付いていた。
「………… 」
「なあ、あれって二人付き合ってんの?」
周さんが目の前の二人を見ながら呟いた。
多分康介は修斗さんの事が好きなんだと思うけど……
「付き合ってるかはわからないけど、周さんが連絡取れなくなってる時、大変だったんですよ、あの二人…… 修斗さんは康介にずっとちょっかい出してて、挙句大ゲンカして…… おまけに修斗さんはあんな事になっちゃって……」
僕が周さんのいなかった時期を思い返してそう言うと、周さんは驚き僕を振り返った。
「え? 俺は修斗に竜太を構ってろって頼んだんだけど……何? あいつ康介のこと構ってたの?」
「……?」
なにそれ??
「僕、修斗さんに構われた記憶なんてありませんけど……」
「なんだよ修斗! あいつ竜太の事、ほったらかしだったのかよ!」
周さんは修斗さんに怒ってるけど、ちょっと僕には意味がわからない。僕の事をほったらかしにしてたの周さんじゃんか。
まあでも、今こうやって二人でデートを楽しめてるんだからいいんだけどね。
それにしても……修斗さんは凄く楽そうだ。逆に康介は赤くなってなんか色々焦ってる感じがする。
「……だから! 何で俺に構うんですか? 俺……あ、あんなことした……のに。嫌じゃないんですか?」
興奮したような感じで康介が大きな声で言うものだから、少し会話が聞こえてくる。康介と修斗さんは、女の子だらけの店の前の席に座ってドーナツを食べながら話していた。
「え? なんのこと? 俺は康介君大好きだよ? 何も問題ないでしょ 」
「だから! そうやってすぐ俺の事を揶揄うんだから!」
はっきり言ってあれは二人で顔つき合ってドーナツ食べながらイチャイチャしてるようにしか見えないよね。
「なぁ、竜太。あの二人さ、あれで付き合ってないのかな? 俺にはあいつらがデートしているようにしか見えねえんだけど」
不思議そうな顔の周さん。はい、僕もそう思います。
「修斗、ありゃ康介の事かなり好きだぞ。あいつ、好きな奴に無自覚で構い倒して、相手を自分の方に向かせて両思いになるっていうな、いつものパターン……まぁ、相手が男っつーのは初めてのパターンだけどな」
楽しそうな顔をして周さんはそう言った。
康介も修斗さんの事が好きなくせに、ああやってグイグイ来られると焦っちゃうのかな?
「さっさと付き合っちゃえばいいのに……」
周さんと二人でそう呟き、これ以上覗き見していて見つかってしまっても良くないので、そそくさと僕らはその場を去った。
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