195 / 432

何が元カノだよ

康介達に見つからないように公園を抜け、僕らは近くのファーストフード店に入った。 「お昼、ここでいい?」 周さんに聞かれ、迷わず頷く。 休日なのでそこそこ混雑していたけど、周さんが僕にぴったりくっついていてくれるから僕は安心して注文をした。 周さんは、ポテトや飲み物が付いたセットを二つ。 ……二つ? 「周さん、二つも食べるんですか?」 そういえば康介もお弁当二つとかよく食べている。僕は一つあれば満足。一番小さなセットを頼んでいると、「そんだけでいいのかよ」と不思議そうな顔をされてしまった。 「これ食い終わったらさ、買い物な。好きなものを買ってやるからよく考えておけよ」 「……はい」 僕はこうやって周さんと二人でデートが出来てるだけでもう幸せでいっぱいなんだけどな。嬉しそうにそう言ってくれる周さんを見ながら、僕は凄く贅沢だな……なんて思った。 それにしても、ほんとにバーガー二個をペロッと食べちゃうんだね。びっくり。 あ……周さんの口もとにケチャップ付いてる。気づいた僕は思わずテーブルにあるペーパーで口を拭ってあげたら、周さんが赤い顔をするもんだから僕まで恥ずかしくなってしまった。 「急にドキッとすることすんなよ……」 照れてはにかんだ顔が可愛い。周さんのこんな表情、きっと僕の前でだけなんだと思うと凄く嬉しかった。 「……あれ? あっくんじゃん! 久しぶり! 」 突然大きな声で僕らのテーブルに近づいてくる派手な女の子。 ちょっと小柄で可愛らしい。でもあからさまに嫌な顔をした周さんを見て、少し僕は緊張してしまう。 「あっくん言うな……」 あっくんって……周さんの事だったんだ。 「なんだよ、邪魔だから向こう行けよ!」 周さん、凄い怖い顔になってる。女の子相手なのにそんな乱暴な言い方しなくても……と思ったけど、明らかに嫌そうな周さんを見て何か事情があるのかな? と気になってしまった。その女の子は怒っている周さんにも全然動じず、図々しく僕の隣に腰掛けた。 チラッと僕の顔を見て、周さんに聞く。 「あっくんらしくないお友達だね。修斗は一緒じゃないの?」 「………… 」 らしくないってなんだよ…… 人の顔見て失礼じゃない? その女の子は僕らの席にしばらく居座り、ベラベラと思い出話なんだかよくわからない話を一人で楽しそうに話していた。何度も周さんがこの子を追い払おうと色々キツイこと言うのに全く動こうとしない。こんな図々しい人、初めて見たかも。 「ねえねえ、ほんとさ、久しぶりに遊ぼうよ。今私フリーなんだよ」 フリーとか言って積極的なんだな。これって周さんにアピールしてるってことだよね? ちょっと感心しながら、僕のことなんか全然目に入っていなさそうな彼女を僕はチラッと見る。 あ……見るんじゃなかった。 その女の子の耳に揺れるシルバーのピアス。周さんの耳で今も揺れてるそのピアスとお揃いだった。 「………… 」 その子は僕の方をジロジロ見る。僕はもう彼女のことが見られなかった。頭の中は「何で?」「何で片方ずつお揃い?」とぐるぐる嫌な気持ちが渦巻いている。 「あっくんと真逆なタイプだけど、よく見たらかっこいいね! 可愛いし……私あっくんの彼女。よろしく…… 」 「あ? ふざけんなよ! 誰が彼女だ! 元だろ? 元! それにあれで付き合ってたって言えんのか? テメエなんか元カノでもねえわ!」 周さんが凄い剣幕で怒ってる。 怒って否定してくれたけど、……でも僕もちょっと気分が悪いや。だって否定してるけど、今その耳に揺れてる彼女とお揃いのピアスは何なの? そんな怒るほど嫌なら外せばいいのに何で今もその耳につけてるんだよ。 後生大事に身につけちゃって…… 「相変わらずあっくんは目立つよね。すぐにわかったよ。てかさぁ、さっきからここにいるイケメンの友達、そろそろ紹介してくれてもいいんじゃないの?」 もう、限界…… 「お前になんか紹介しねえよ」 そう周さんが言ったと同時に僕は席を立った。 「……僕は帰りますので、ごゆっくり」 できるだけ冷静を装って彼女に言い、この場から逃げるように店から出た。

ともだちにシェアしよう!