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怒ってません!
なんだよ! 元カノとか別にいいけどさ、すっごいイライラする! お揃いのピアスなんかつけちゃってさ! なんだよ!もうっ! イライラする!
店を飛び出し闇雲に歩いていると、すぐに康介と修斗さんに出くわしてしまった。
「あれ! 竜太君? ……って、おい!待ってよ」
あ! って思ったけど、説明が面倒なのとどう言ったらいいのかわからなくて僕は修斗さんの呼びかけを無視してしまった。
でも……
周さんは追っかけて来てくれないんだな。そんな事を考えてしまう自分が女々しくて気持ち悪い。
ヤキモチ焼いて凄い嫌だ……恥ずかしい。
突然肩を叩かれ驚いて振り返ると、笑顔の修斗さんと康介が立っている。なんだよ、結局僕は追いつかれてしまった……
「竜太君、周と一緒じゃないの? 今日は待ちに待ったデートの日なんでしょ?」
修斗さんに言われ、思わず怒りが顔に出たのか驚かれてしまった。
「どうしたの? すっごい怖い顔! 何? 喧嘩でもしたの? 竜太君が怒ってるのって珍しくない?」
康介も修斗さんの横で怪訝な顔をして僕を見ている。
どうしよう……上手く取り繕わないと、と思ってもこのイライラした気持ちを隠すことなんてもう出来ない。
「喧嘩なんてしてません。怒ってません! 元カノが来たので僕は邪魔だろうから帰るんです!」
言いながら感情的になってしまっているのが自分でもわかって恥ずかしくなった。修斗さんは僕を見てギョッとした顔をする。
「なんだよ元カノって? てか、周の元カノ? え? 誰だ?」
「………… 」
誰だかわからないくらい、周さんには元カノがいっぱいいるのか。ふうん、そうなんだ……
今度は悲しくなってきた。
「竜?? どした?」
康介に顔を覗かれ、慌てて顔を背ける。
「なんでもない!」
クソっ……泣くもんか!
立ち止まっていると、遠くから周さんの呼ぶ声が聞こえた。声が怒ってるのがわかる。でも怒ってるのは僕の方だ!
周さんの声に、後ろを振り返った修斗さんが顔色を変えた。
「げっ! マジかよ! 康介君、逃げるよ!」
そう言って修斗さんは慌てて康介の手を握った。康介は訳が分からず頭上にハテナマークが飛んでいる。
「竜太君、あいつ元カノなんかじゃないよ! 周の話ちゃんと聞いてやってね。あいつと関わりたくないから俺らもう行くね!」
それだけ言うと、バタバタと修斗さんと康介は逃げて行ってしまった。
あっという間のことで僕は頭が追いつかずぽかんとそこに取り残される。僕に向かって駆けてくる周さんを追い越すように、さっきの女の子が僕の方へ走り寄ってきた。
「ねえ! 今ここに修斗いたでしょ? 行っちゃったの? なんだよ、久し振りにお話したかったのに!」
……この子は一体何者なんだろう?
明らかに修斗さん、この人を避けるために慌てて逃げて行ったんだよね? 元カノなんかじゃないし、周さんの話をちゃんと聞いてやれって言っていた。お陰で少し冷静になれた僕は、後から来た怖い顔をした周さんを確認してからその彼女に言ってやった。
「さっきは突然ごめんなさい。僕は今日は周さんと過ごす約束なので、やっぱり周さんと一緒にいます。すみませんが、あなたはここで遠慮してもらえますか?」
はっきりそう言うと、僕は周さんの手首を掴んで来た道を引き返す。女の子は呆気にとられた顔をしてポカンとするも、「わかった、またねぇ」とだけ言って手を振って去っていった。
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