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仲直り
「おい、竜太!……竜太ってば! 離せよ!」
僕は黙って周さんの手を引いて歩く。周さん、怒ってる……でも僕だって怒っているんだ。ちゃんと話を聞かないと納得できない。
ずんずんと歩き、さっき来た公園に着いた。ベンチまで行き、そこでやっと周さんの手を離す。周さんは自分の手首を摩りながら、不機嫌いっぱいの顔で僕を見た。
「なんなんだよ! 勝手に帰るなよ!」
元カノだろうが何だろうが、そこはもうどうでもよかった。
僕は周さんとさっきの子が、お揃いのピアスをしていたのがどうしても許せなかった。
「周さん、今すぐそのピアス取ってください!」
ベンチに座りながら僕は単刀直入に言うと、周さんは少し首を傾げた。
「……なんで突然にピアス? 俺これ気に入ってんだけど」
まさかの周さんのその言葉に僕は怒りでカーッとなってしまった。気に入ってる? は? ふざけんなよ! そんな感情が僕の中で爆発した。
「なんだよ! そんなに思い入れがあるんなら、もういいです! ずっとしてればいいんだ!」
僕の怒りっぷりに周さんは少し引き気味…… 一方が冷静さを欠くと、もう一方は逆に冷静になるのだろう。
「竜太? ほんと、何でそんな怒ってるん? ピアスそんなにダメ? あいつの事で怒ってるんじゃないのか?」
「………… 」
優しく僕に問いかけてくる周さんの顔が見られない。馬鹿みたいに怒ってしまって恥ずかしいのに我慢できない。恥ずかしさと悲しさと悔しさと、色んな感情がごっちゃになって溢れてくる。
「…………から、僕は……いや……です……いっ……や……」
ちゃんと喋れない。なんだか苦しくて息もできない……苦しいよ、嫌だ……
「おい! 竜太? 大丈夫か? ……ちょっと深呼吸して落ち着こうか? ほら……ゆっくり息吸って……」
僕の横に腰掛けて、周さんが肩を抱きながら僕を覗き込む。手を握り、背中を摩ってくれ「落ち着いて話せ……」と優しく僕の言葉を待ってくれた。
「……だから、あの子とお揃いのピアス、僕はどうしても嫌なんです……見たくないんです」
やっと呼吸が整い俯きながら小さな声でそう言うと、周さんは驚いて僕の顔を見た。
「え?? お揃い? は? マジかよ、あいつまだ持ってたのかよ! ……悪い、竜太。そりゃ嫌だよな。わかった外す外す! てかこんなもんすぐ捨てるし! 気付かなくてほんとごめんな!」
周さんはバタバタと慌ただしくピアスを外し、近くのゴミ箱へ投げ捨てた。
「あのピアス、中学んとき自分で買ったやつなんだけどさ、あいつが真似して同じの買って、そんで勝手にお揃いだって言ってつけ始めたからさ、頭にきて捨てさせたんだよ。まさかまだ持ってたなんてな…… あ! 俺が買ってやったとかじゃねえからな? 絶対ねえから! 信じて」
そう言いながら、周さんは僕を抱きよせる。修斗さんはあれは元カノなんかじゃないって言ってたけど、そうなのかな? やっぱりそこだって気になってしまう。
「周さん……あの人と付き合ってたんですか?」
「ん……中学のとき付き合ってくれって言われて、別にいいかなって付き合い始めたんだけど、色んな奴に色目使うしちょっとヤバい奴だってわかってすぐ別れたんだよ。一ヶ月も付き合ってない」
そっか…… だから修斗さんはあれは元カノなんかじゃないって言ってたのか。よく考えたらさっきだって周さん、あの子に自分から話しかけることもしなかったし、一生懸命追い返そうとしてくれてた。
僕の酷い嫉妬心で周さんに嫌な思いさせちゃった……
「周さん……ごめんなさい」
僕、女々しくて嫌な男だ。恥ずかしい。でも、周さんはそんな僕に逆に謝ってくれた。
「ごめんな、竜太……ほんとごめん。お願いだからもう笑って」
今にも泣きそうな周さんに、僕はにっこりと微笑んだ。今日は僕のために周さんが頑張ってくれてたのに、周さんにこんな悲しい顔をさせてしまった……
僕の方こそ、本当にごめんなさい……
肩を抱いてくれてる周さんに、僕は少し寄り添った。
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