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ブチ切れ

竜太は俺を一睨みして、そのまま俺の手首を掴んでずんずんと歩く。 初対面の凪沙に馴れ馴れしくされて、おまけに俺とのデートを邪魔されたことに怒ってるんだろうと容易に想像ができた。 それにしたって、勝手に一人で帰ろうとするってどういうつもりだよ。竜太が食い終わったら凪沙なんか無視してさっさと店を出ようと思ったのによ、そこまで怒ることもねえんじゃね? いい加減、掴まれてる手首も痛いし、どこまで行くんだよ。意外な竜太の掴む力に俺は少し驚いた。 「おい、竜太! ……竜太ってば! 離せよ!」 いつの間にか俺たちはさっき来た公園に着いていた。ベンチまで歩き、やっと竜太は俺の手を離した。竜太はゆっくりとベンチに腰掛け、俺が今までに見たこともない微妙な表情をしている。なんなんだよ……俺だって怒ってるんだからな。 「なんなんだよ! 勝手に帰るなよ!」 デートを邪魔されたくらいで…… そんな事でこんなに怒るなんて。 帰ろうとするなんて大袈裟じゃね? いや気持ちはわかるけどさ…… すると意外な言葉が返ってきた。 「周さん、今すぐそのピアス取ってください!」 なんでピアス?? これ、気に入ってずっとつけてるやつだし……今までだって竜太の前でもつけてたよな? 俺は突然思いもよらないことを言われてちょっと混乱してしまう。 「気に入ってるし……」と言うと、真っ赤な顔をして竜太がブチ切れてしまった。 「なんだよ! そんなに思い入れあるんなら、もういいです! ずっとしてればいいんだ!」 こっちこそなんなんだよ! へ? そんなに怒ること?……ていうか、何でこのピアスがダメなんだろう。 本当に俺には意味がわからなかった。 「……竜太?ほんと、なんでそんな怒ってるん? ピアスそんなにダメ? あいつの事で怒ってるんじゃないのか?」 正直に怒っている理由がわからないと伝えると、今度は泣きそうな顔をして俯きながら竜太は話し始めた。だけど過呼吸気味になってしまったのか、うまく喋る事ができないらしく苦しそうな声が漏れただけで、全然聞き取れない。 ……焦った。 なんでこんなに興奮してんだ? こんなに激昴する竜太も見たことがなかったから、本当に焦った。 「おい! 竜太? 大丈夫か? ……ちょっと深呼吸して落ち着こうか? ほら……ゆっくり息吸って……」 俺は竜太に近付き、肩を抱いてやりながら顔を覗き込む。そして呼吸が整い、上気した顔色も落ち着いた竜太が言った言葉がやっと俺の耳に入ってきた。 「……だから、あの子とお揃いのピアス、僕はどうしても嫌なんです……見たくないんです」 お揃い? あ! そう言われ、やっと俺は思い出した! あいつが俺の真似して同じピアスをつけ始めて、俺に買ってもらったなんて言いふらしてて凄えムカついた事があったっけ……その時すぐに捨てさせたけど、まだ持ってやがって、よりにもよって今日それをつけてたってわけか。 そりゃ怒って当たり前だ。しかも俺、気に入ってるなんて言っちまった。 お揃いだった理由を竜太に説明し、俺はそこにあったゴミ箱にピアスを捨てた。 それから凪沙とはどういう関係だったのか聞かれた。 やっぱりそこも気になるよな……これだってちゃんと説明してやらないと竜太だって嫌だろう。 元カノとは言ったものの、付き合っていたと言えるのか? 一応説明はしたけど、納得してくれただろうか……凪沙の本性は詳しくは話さなかった。変に怖がらせたり不安にさせたくなかったから。 でも、俺の事でこんなにも激昂する竜太を見て少し嬉しく思ってしまった俺がいる。 ごめんな、竜太。 肩を抱いた手に力が入る。 俺が悪いのに…… 項垂れて俺に謝る竜太を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 今日は竜太の喜ぶ顔を見たかったのに、竜太が一番幸せな気分になれるようにしたかったのに……こんなに辛そうな顔をさせてしまった。 「ごめんな、竜太……ほんとごめん。お願いだからもう笑って」 そう言うと、俺の方を見てぎこちなくにっこりと笑ってくれた。そして俯き、竜太は俺にそっと寄り添ってくる。 ……だめだ、今すぐ抱きしめてキスしたい。

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