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「いつまでも貴方のそばに」

「……周さん? ここですか?」 買い物を終えた僕は周さんに連れられて何やら高級感漂うレストランの前にいる。 そうそう、見にいく予定だったイルミネーションは時間がなくなり行けなくなってしまった。また改めて一緒に行こうな、と周さんが言ってくれたけどちょっと残念。 「予約してあるんだ。行こっ!」 周さんはそう言って僕の背中に手を回した。 ……こんな素敵な店、緊張してしまう。 周さんがスッとドアを開けてくれ、僕をエスコートしてくれる。薄暗くワインレッドを基調とした店内、間接照明が落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。いきなりこんな高そうなお店に連れてこられてしまって僕、浮いてないかな…… 雰囲気にのまれてしまって僕はドキドキしっぱなしだった。 すぐ店員が僕らの方へ来て、店内を案内される。そして僕らが案内された席は、店の奥の奥、しっかりとした扉のある個室だった。 カップルシートの完全個室。中を見るとテーブルには綺麗な花とキャンドルが飾られていた。 「周さん、凄い……高そうです」 個室に入ってすぐ、僕は周さんにそう言った。 「いや、それがそうでもないんだよ。そういうのはあんま気にすんな。 竜太、よく見てみ……わからない?」 「……?」 あ! そういえばここって、僕が雑誌で見ていいなぁって言っていたお店だ! 「周さん、ここって僕が行きたいって言ってたお店?」 僕が聞くと、満面の笑みで周さんは頷いた。 「陽介さんと竜太がデートした時に雑誌でこの店見て記念日とかにいいですねって言ってたんだろ? 陽介さんが教えてくれたんだよ」 周さんったら! この人はどれだけ僕を喜ばせてくれるんだろう。嬉しくて今すぐ抱きついてキスしたい! 「まあとりあえず座ろっか?」 周さんに促され、席につきながらまだ店員さんがそこにいることに気がつき恥ずかしくなった。 ウエルカムシャンパンをもらう。周さんに「ぐびぐび飲むなよ」と注意された。 前菜が二品、見たこともない料理……綺麗に皿に盛り付けられていて食べるのが勿体無いくらい。 「周さん、凄いね! 見た目も綺麗だし凄い美味しいです」 周さんは終始にこにこと嬉しそうに僕を見ている。 前菜から始まり、パスタにメイン料理、どれも美味しくて綺麗で感動した。 「竜太、顔少し赤いけど大丈夫か?」 周さんが心配してくれる。最初に出されたシャンパンを飲み終え、周さんが指摘する通り少し酔ってしまったのかもしれない。 でも全然大丈夫…… 食事を終え、今日一日の事を二人で話す。少し喧嘩しちゃったけど、それはお互い好きな気持ちがあっての事…… 僕は周さんが大好きなんだと再認識した。周さんが絡むと僕はあんなにも感情的になってしまうんだと自分でも少し驚いた。誰かを思って熱くなるなんて、今まで一度だってなかったことだから。 朝から僕のために一生懸命な周さん。そんな周さんが僕を見て嬉しそうに笑うのが、僕も嬉しい。僕の事が好きすぎるって言ってくれたけど、僕だって同じだ。 ずっと周さんに触れていたい。 そばにいたい。 「竜太、ちょっと手ぇ出して」 周さんに言われ、僕はテーブルの上に手を置く。 するとさっき買い物をした小さな箱を僕の手の上にポンと置いた。黒い包装紙でラッピングされ、赤いリボンが可愛く付いている。 「誕生日おめでとう。開けてみて 」 ……なんだか、もう泣きそうなくらい胸がいっぱいで嬉しいんだけど。 周さんが注目する中、僕は包みを開けて中を見た。クッションの上に鎮座して誇らしげにも見えるレザーのブレスレット。留め具がシンプルにシルバーでデザインされたブレスレット。 僕らが最初に見ていた二連のレザーブレスだった。 顔を上げると周さんが自分の手首を顔の横で振っている。その手首には僕のと色違いのブレスレットがついていた。 僕のはダークブラウン、周さんの腕についているのはブラックだ。 「留め具の内側見てみ」 周さんにそう言われ、内側を見てみると刻印された文字が見えた。 [ Always With You. A&R ] これって、いつまでも貴方のそばに……って事だよね? 「あ……周さん……」 一気に目頭が熱くなり、涙が溢れてしまった。 「店員がさ、ちょっと待ってもらえば文字入れする事が出来るなんて言うからよ、入れてもらった。俺のにも同じの入ってる」 照れ臭そうに笑う周さん。……もう僕、涙で前が見えない。 するとこのタイミングでドアが開き、ケーキが運ばれてきた。 プレートには [ happy birthday 竜太 ] と描かれていて、その文字の横にケーキが乗っている。生クリームのケーキに可愛らしいバラを模した苺があしらわれており、まわりには色とりどりのフルーツが散りばめられている。おまけにパチパチと花火まで刺さっていた。 「凄いっ!」 もう感激で涙でぐしゃぐしゃになりながら周さんを見ると「竜太泣きすぎ!」と言って周さんは赤い顔して苦笑いをしている。ケーキを運んでくれた店員まで、泣きまくっている僕に驚き、あたふたしながらハンカチを渡してくれた。 「こんなにも喜んで頂けて良かったですね」 店員は僕と周さんを見て話しかけてきた。 「こいつ、泣き虫なんだよ」 ……反論したいけどその通りだから何も言えない。 「実は私も恋人がいましてね、あ、同じ男性なんですけど……彼は恥ずかしがってデートもしてくれないんですよ。だからとっても羨ましいです。こんなに素敵なカップル初めて見ました」 少々ぶちゃけすぎな店員は、泣いている僕に優しく笑いかける。 「ご予約の電話の時から、とっても大切な人のお誕生日だっていうことを何度も強調されてましたよ。お誕生日、おめでとうございます」 そう言って店員は「お幸せに……」と出ていった。 嬉しすぎる! 僕はなんて幸せ者なんだろう。 「周さん、僕は今まで生きてきてこんなに嬉しかった日はないです。今すぐ抱きしめたいくらい周さんが大好き!」 もう嬉しすぎて、恥ずかしい事も平気で言えちゃう。 「当たり前だろ? 後でたっぷり抱きしめてくれよ。 今日は一晩中俺が竜太を甘えさせてやる」 僕より更に恥ずかしい事を言ってのける周さんに、僕は赤面しながらぶんぶんと頷く事しか出来なかった。

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